とある日の深夜。
お手製アロマキャンドルの灯りが静かに揺らめく、二階のテラス。リオンは椅子に足をゆったり組み本を読んでいる。私は星空を見上げながら、ユーリの帰宅を待っていた。
ぽーん、と時計が鳴る。一時を回ったらしい。
その音に本から顔を上げたリオンは、暗い小道を見つめ溜息を吐く。

「当分帰って来そうにないな」
「うーん…でもあとちょっとだけ。リオンは寝てていいよ」
「せめて中に入って待てばいいだろう。僕は寝る、何かあったら起こしてくれ」
「うん…ありがとう」

朝帰りになるのかなと首を傾げる。リオンが部屋に戻ってから約40分後、バウルが上空に現れた。バウルに乗ったジュディスがこちらに向けて手を振ってくれる。どうやらユーリを送ってくれたらしい。
カフェの前に着陸したバウルから、ジュディスに抱えられたユーリも現れる。見事にアルコール臭い。

「ごめんね、ジュディス。送ってもらっちゃって」
「ふふ、いいのよ。久し振りにユーリに会えて皆楽しそうだったもの。たまにはアルニカも遊びにきてちょうだいね」
「ジュディス…ありがとう…」
「ただ、ユーリこの通り潰れてるから介抱してあげて」

ジュディスからユーリを引き渡され、首に彼の腕を回してなんとか支えることができた。
ジュディスはバウルに乗ってまた街へと降りていく。まだ酔いつぶれた人がバーにいるらしい。
よいしょと抱え直し、ユーリをカフェへ運んだ。

さすがに二階にまでは運べなかったので、カフェの中にあるソファーへユーリを寝かせる。
意識があるのだかないのだか、むにゃむにゃと何か呟いている。その姿がおかしくて、私は笑った。
ユーリの部屋から毛布を持って、ソファーの傍らに膝を付く。ぼんやりと目を開いたユーリは、私を見つめて「よう」と挨拶。寝ぼけてる。

「大丈夫?何か飲む?」
「ん……」

上体を起こしたユーリは頭をがりがりと掻いて顰めっ面を浮かべる。

「水でいい?」

頬が赤く上気している。夜風で風邪をひいていないといいが。そんな心配をして少し身を乗り出すと、突然何かに引き寄せられた。
ユーリに引っ張られたんだ。そう思ったときには、視界いっぱいにユーリがあった。
きゅうっと目が大きく見開く。
腰に回された腕はきつく、でも優しく、触れ合う唇は熱く、苦い。
腰が引けてもユーリに引き戻され、立ち膝状態の私はそこからどう動くこともできずと言うより動いていいのかすらも分からず、ただ彼の服をぎゅっと掴んだ。

「……っユー、」

ユーリと紡ごうとした口唇は、深いキスで飲み込まれて音になることはなかった。
普段甘えたり弱音を見せたりしないユーリが、甘えるようにしてくるので、なかなか邪険に扱えない。

「ッ!んん…っ……」

舌が絡む。アルコールの味が伝って喉が灼けるよう。苦しさに酸素を求めても、より深く口付けられるだけ。

はあとユーリから吐息が零れる。

「…っふ…ゃ…、は、待っ……!」

腰に回された腕が、するりと下へ降りていく。太腿の付け根、かなり際どい位置に指が食い込み、びくりと体が震える。
すると、ちゅっとリップ音が鳴った。

「ごちそーさん」
「えっ」

ユーリはソファーにごろんと倒れ、健やかな寝息をたてはじめる。
口の周りがべたべた。洗面所で顔を洗って、私も部屋に戻ったけど結局一睡も出来ずに朝を迎えた。


翌朝。起き出したユーリは大きな欠伸一つして、カウンターの席に座った。
甘いカフェオレを彼の前に出しながら、私はさっと奥に引っ込む。

「アルニカどうしたー?」

薄々気付いていたけど、やはり酔った勢いだったらしい。ほっとしながらも、釈然としないもやもやを抱えながら「なんでもない」と出来るだけ元気に答える。

気まずそうに私とユーリを見つめるリオンに、必死に説明するのはそれから数分後。

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