晴天。晴れ渡った青空の下、森に囲まれた小高い丘の上にあるカフェはいつもより少しばかり賑やか。丘の先をじっと見つめる少女は、胸の前で両手をぎゅっとして、今か今かと待ち構える。
はたはたと白い洗濯物が揺れる音は、いったい何回聞いただろう。ぎぃこぎぃこ、ぱからぱからと、馬車馬の音が混ざった。



馬車馬を操るおじさんは、こちらに向かって大きく手を振る。私もおーいと手を振り替えして駆け出す。

「お疲れさまー!」
「久し振りだな、アルニカ。また来るときは美味しいランチを頼むよ」
「今日はまたお仕事があるのね。とびきり美味しいの作って待ってる!」

おじさんは私に親指を立てると、馬を連れて水飲み場へ歩き出した。荷物を降ろしたらすぐに街へ戻るらしい。
ぎしっと音がした方向に、すらりとした少年がいた。漆黒の髪、同じ色の服。

「リオ……ジューダス!お疲れさま」
「リオンだろうがジューダスだろうが構わん。僕は僕だ。そう言ったのはお前だろう、アルニカ」

ふと笑う彼の表情は、柔らかい。そのことにどこかほっとして私も笑う。

「つい、癖で……。それじゃあ、リオン、改めてお疲れさま」
「ああ。これから世話になる」
「どちらかと言うと私がお世話になるんだけど」
「お互いに、だな」
「そうなるねえ」

そんな他愛ない話をしながら、荷台にある荷物をせっせと降ろす。
荷物は少なかった。

「リオンの部屋、階段の一番近くにある部屋使って。掃除はしてあるから大丈夫。ベッドとタンスとランプしかないから、要り物があったら言ってね。えーと、それから、ユーリ!」

二階のテラスに向かって叫ぶと、すぐにひょこっと顔を出す。頭にタオルを巻いているので作業員さながらの姿、よく馴染んでいる。

「あれがユーリね。用心棒兼家事担当!リオンみたいにお城の人じゃなく民間の人で…って話したよね」

私のざっくりした紹介に意義があるのか、ドスが利いた「おい」と言う言葉にひゃっと首をすくめる。
タオルを解くと見事な黒髪がさらりと零れた。ユーリはにっと笑ってリオンを見据える。

「ユーリ・ローウェルだ。宜しく頼むぜ、ジューダス」

リオンはしっかり頷き、部屋へ荷物を移動し始める。

ユーリは結構前からの知り合いで、好意でここを守ってくれている。報酬は雨風凌げる場所、美味い飯があればいいと、なんともシンプルだが彼らしい。そういうわけでもう少ししたら約一年、ユーリと一緒にここで暮らしていることになる。
リオンは、戦争で城を裏切ったことから重い罪に問われて今まで幽閉されていた。その期間がようやく終わり、ウッドロウさんの計らいにより、城からの派遣任務として「鍵」の警備につく。因みに住み込み。その「鍵」は、私が管理者でとても大切なもの。警備が手堅くなるのは嬉しいところ。
私は、その「鍵」の番人にして、このカフェを切り盛りするカントリーガール。
戦争が終わった今、とても穏やかな日が続いている。

傷は癒えても、痕は残る。

私にも、ユーリにも、リオンにも。癒えていない傷はあるけど、ここで少しでも癒えることを私は祈っている。
その悲しい出来事を繰り返さないための鍵だから。

end.

コラージュは淡緑色で

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