ざば、と水から上がる。肺いっぱいに酸素を取り込んで、ごろりと仰向けになってその場にユーリは寝転ぶ。
死にかけたというのに、今は清々しい。気持ちいいくらいだ。
少し遅れて、またざばりと音がした。全身濡れ鼠になった彼女は、よろよろと歩を進めて、ユーリの隣に倒れ込む。

「信じられないです……あなたって人は……。普通あそこは逃げる一択です」
「いやあ、あんたとならいけるかなと」
「ばかです」

信じられないとまた彼女は膨れっ面で繰り返す。
それでも、やってのけたのだ。2人きりで魔物を倒してみせた。圧倒的不利な条件、環境の中で、こうして勝利をもぎ取ることが出来たのだ。

「もう、あんな無茶はごめんですからね」
「そんときは巻き込むからよろしく」

文句を言うべく仰向けの体勢から横になると、悪びれずにんまり笑うユーリを見て、言葉をなくす。
いつの間にかユーリも同じ体勢で、距離が近い。お互いの息が掛かる距離。居たたまれずに身動ぎすると、腰に手を回されてがっちりとホールド。 水の中をもがいてきた体はくたくたで、一挙一動にかなり体力を持っていかれる。

「抵抗してもいいぜ」

楽しそうな声。これは抵抗するだけ無駄だろう。逃げるとしても暫く休んでからが賢明な判断といえよう。

する、と濡れた衣擦れの音がする。
ユーリに抱かれたままの状態なので、首を巡らせるのも億劫だった。伏せていた睫毛をそっと持ち上げたときには、もう、遅く。
あっと言う声すらも、唇に塞がれる。

「……ん、っ、」

角度を変えられて、これはまずいとユーリの胸板を押す。
けれども、ユーリは貪るように食いつき、いつの間にやら組み敷かれる形でそれを許してしまっていた。それから幾度か唇を重ねて、ようやく離れる。
視線を外すのも躊躇われて遠慮がちにユーリを見つめる。
また、彼はにんまり笑った。

「あんた、名前は。オレはユーリ・ローウェル、凛々の明星ってギルドの一員だ」
「……聞いたことないです」
「そりゃな。あんたみたいなやつだったら頭首も歓迎するんだけど」

こんな誘い、普段なら絶対断っているのに何故だろう。

「いいですよ。入りましょう」

さわりと風が揺れ、辺り一面の白い花畑が同じように踊る。
ハルルの木の花弁は確かこんな形だったなと彼女は思う。小さくて、かわいい、強かな花。

花に見蕩れていると、ユーリはぷつと白い花を手折った。その花は彼女の耳元へ。髪飾りのつもりなのだろうか。

「ユーリ、私の名前は――」


その後。意外とロマンチストなんですね、とからかってみたところ、お前がリアリスト過ぎるんだ、と。
さて、どうなることやら。この燃えるような想いが、この花のように咲きますように。

end.

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