低いヒールが石畳に硬質な音を響かせる。私が不器用なのは重々承知しているが、その不器用が原因で奏でられる音だとしても、お願いだから静かにして欲しい。誰もいないにしても、図書館で物音は立てたくない。
木造の本棚に手を引っかけて、うんしょと背伸び。指先は掠るのに、届くまでには至らない。あともう少し。もう、少し。
誰かに頼めば簡単だが、生憎1人だけなのでそうはいかない――と、背伸びを止めた時、私に影が被さった。にゅっと伸びる褐色の腕は、私が欲しかった本を意図もたやすく手にしている。

「これであってるか?」

振り向くと同じ学校の制服を纏った男子高校生。

「そ、反ノ塚……!」

思わずさん付けしたくなるほどの風貌だが、私と同い年でクラスメートだ。
彼、反ノ塚連勝は私に本を渡すなり、図書館なんて初めて来たわーと辺りを見渡しながら呟く。確かに、図書館で反ノ塚と会ったことはない。本よりも雑誌とかを読みそうだ。それは私の勝手な偏見だけど。

「ありがとう。助かった」
「はは、なまえちっちゃいよなー」
「ちっちゃくない!反ノ塚がでかいだけ!」
「そーか?」

首を傾げているが、180センチはあると思われる。十分にでかいと言えよう。確かに、私の身長は水準よりも低いけれどもちっちゃくないと言われるほどではない。と思う。

「ていうか珍しいね、図書館いるの。何か借りにきた?探し方分かんないでしょ、手伝うよ」

助け舟のつもりで言ったのだが、反ノ塚は所在なく目線を大きくずらすと頬を指先で掻き始める。
今度は私が首を傾げた。

「本じゃないの?」
「本ってか、なんて言うか……」

あー。と唸る反ノ塚。

「なまえが図書館行くの見えたから、追っかけてきた、……」

思わず取って貰った本を落としそうになった。

「あ、え、え、っと……私、に、用事……?」
「用事とかそう言うんじゃなくて、だから、あのな、―――。……なまえ、今から暇?」
「ひ、ひま!」

甲高く応じた声も、頬に集まる熱も、胸がいっぱいになるこの気持ちも。まさかこんなところであなたと会えるなんて、って私の気持ちが弾け飛んでしまいそうで。

私の返事に、くしゃっと笑う反ノ塚。
気持ちが弾け飛ぶカウントダウン、スタート。

end.

午後3時の秘密基地 title by.i'm sorry mama.

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