微睡む意識が揺さぶられる。いつも使っている柔軟剤の香りが鼻腔を掠め、更に現実を色濃くさせる。
この声は、誰の声だろう。まだ寝かせて欲しい。久し振りの休みなのに。出来るなら昼間まで寝かせて。
「おい、起きろ。頼む」
頼む。そう耳にした声は、どこかで聞いたことのある声だ。なんだったっけ。
前後の言葉に温度差があったけれど、頼まれたら断れないこのお人好し気質が過敏に働き始める。
観念してのろのろと目を開けると、ぼんやりする視界に艶やかな黒髪が映った。凄いキューティクルだ、天使の輪がある……と寝ぼけた頭はまだ覚醒しない。
「そりゃどうも」
しゃべった。お礼言われた。
「……さすがのオレも怒るぞ」
怒られるのは、いやだ。
薄暗い自分の部屋も手伝って、なかなか輪郭が定まらない。眠い目を擦り、賢明に目を凝らす。
そこにいたのは、良く知る顔立ち。
ああ、なんだ夢か。夢に見るまでとは、どれだけ好きなんだろう。
寝よう。きっとまだ朝方だもの。
待て、とか、おい、だとか、耳元で響くのだが生憎申し訳ない、睡眠優先とさせて頂こう。夢なのに睡眠もありゃしないか。
寝返りをうったとき、背筋がすうっと冷気で撫でられたが再び暖かくなったので気にしないことにする。
休みはまだ始まったばかり。しっかり惰眠を貪らせて頂きます。
お休みなさい。
目覚ましのアラームがうるさい。ぱんっと手のひらでボタンを押すと、やっと静かになる。しまった、目覚ましを切り忘れた。昼間で寝る予定がぱあになる。ただいまの時刻、午前7時。
そのまま枕に、もすんと顔を沈め夢を思い出す。そう言えば、ユーリの夢を見たのだった、と。
テイルズシリーズは一通りプレイしてきた私だが、一位二位を争う程に好きなキャラクターがヴェスペリアのユーリである。ヴェスペリアが出るまでリオンが一番だったのに。いや、今も好きだ。
果たしてあれは夢を見たと言って良いのだろうか。私二度寝してるし。風景がやたらリアルだった。夢では良くあることだ。あるある。
そうだ、二度寝しよう。寝返りをしようとした体は、何かによって阻止される。それで諦める私ではないので、力ずくで無理矢理体を倒す。
「うおっ!?」
自分の声ではない声と、どすんと、鈍い音がした。
一気に目が覚める。
慌てて起こした体は、仕事疲れもあって重いがそうも言ってられない。ベッドのすぐ隣に、黒ずくめの男がいるではないか。
喉元まで一気にせり上がった悲鳴は、男の機敏な動作によって阻止される。大きな手のひらが口をまるごと覆う。
「悲鳴を上げたいのはこっちなんだけど」
そう言いながら、顔に掛かった長い黒髪を空いている手で掻き揚げ、覗いた顔。知っているけれど、知ってはいるけれど、会ったことなどない。会ったことがあると言えば、パッケージ、雑誌、テレビの画面、はたまたパソコンの画面。携帯にも画像がある。
しかし、私は三次元にはまったくと言っていいほどに興味がない。
心臓が跳ね上がる。
覗いた顔は、端正。澄んだ瞳は意志が強い光りを宿していて、薄く色付く形が整った口唇、日本人気質ではあるけど白い肌。見事な黒髪は肩より少し長い。
丸くするだけ丸くした私の目。呼吸が止まりそう。
だってそこにいるのは、テイルズオブヴェスペリアのユーリ・ローウェルそのもの。
ユーリ・ローウェルのそっくりさんは、私の口を押さえたまま、ベッドへ押し倒す。ぎしとスプリングが弾み、2人分の体重がベッドに沈んだ。
馬乗りになったその人は、にやりと笑う。
「さて、説明して頂かないと帰るに帰れないんでね。オレになんの用だ?それともオレのストーカー?」
「私にも説明が欲しいところなんだけど」
一体全体どういうことなの。
end.
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システム・冬眠・エラー title by. I'm sorry,mama.
以下、あとがき。
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あとがき
続きは次回!みたいな終わり方で大変申し訳ない。次回を書くならば、説明(と言う名の補足という蛇足)やらちまちま入れていきたい。です。
ユーリとの同棲夢読みたいって方いらっしゃいましたらご連絡下さい。多分、書きます。
ご覧頂きありがとうございました。