一人で行動する方が遥かに早い。動かぬ駒などあってもただの重い鎖にしかならない。馬鹿と鋏は使いようとは言ったものだが、馬鹿と鋏よりも自分で動いてしまった方がより確実に手早く済むことを知っていた。
今となっては、使い方を知らなかった、と言った方が良かったのかもしれない。


緑が茂る木々の中、足場の安定した幹に足をかけ、街の様子を見守っていた。現在、任務中である。
さわり、風が揺れる。風音が止んだ刹那、シンクの隣に降り立つ影があった。音もなく現れた影は、まだあどけない面立ちをした少女だ。

「報告します。全ては手筈通りに」
「そう。じゃあ帰還するよ」

こくんと頷いた少女は、ヴァンが寄越してきた補佐官だ。正確に言えば、補佐官の素質はあるがいかんせん年若く経験がないため、ボクの下で経験を積ませてやれと言う話。ある意味では、これも任務と言えるだろう。
邪魔で使えないようなら即座に棄てる。それを条件に、ヴァンの要求を飲んだ。
それを聞いたヴァンは快活に笑ったものだったが、その意味が分かってきた。
確かに、素質は充分過ぎるほどある。しかし、経験がないことでその素質を曇らせている。使える鋏は磨いておけ、ボクはそう取ろう。後々アッシュにでも押し付ければ良い。見張りにもなる、一石二鳥だ。

「……、その、」

道中、少女なまえが口を開く。

「良いのでしょう、か。呼び捨てなんて」
「命令とでも言えばアンタは頷く?」
「それは、命令ですから」

ふう、と溜め息を吐く。ボクよりも幾らか背の低いなまえを見やり、思案する。
そのことで浮かない顔をしていたのか。そもそもその話は初対面の時に言ったもので、かれこれ一カ月は経っている。
そもそも、挨拶程度に交わした言葉に対して悩んでいたとは知らず、ボクは返す言葉がない。

「好きにすれば」

初対面時、いかにも恭しく頭を下げ、堅苦しい言葉使いをするのが無理して体裁を作っていることは明白だった。ぎこちない言葉や行動が任務に差し障るのではないかという思考に至っての言葉。別に親しくしたいとは微塵も思っていない。
そう一々自分の感情を頭の中で否定していくのが、こいつといる時の日課になりつつある。

「いや、とかじゃ……ないんです。……私の憧れの人だから、その、恐縮と言いますか……この私ごときが!と言う心境でありまして」

仮面を付けていて良かった。素顔を隠すとは別の意味で、この仮面に感謝する。

「そういうアンタの異様に馬鹿正直なところ、ボクには全く理解できない。よく恥ずかしげもなく言えるよ」
「それ、っわ……!」

ぐらり。不自然に傾くなまえの体。

「……任務中に、こんな間抜けなヘマしないでよね」

つんのめったなまえを片手で支えながら、釘を差すのを忘れない。

しかし、反応がないのでなまえの顔を伺うと、真っ赤に染め上げた顔は辟易しており、ボクと目が合わない。「なまえ?」と呼び掛けて目を追うが、逃げる。逃げる。
これほど狼狽している彼女は始めて見る。
細い顎を引っ付かみ、こちらを向くことを強制するとさすがのなまえも驚いたようで、一時まんまるくさせた目でボクを見たがまた反らされてしまった。それから、蚊の鳴くような小さな声でボクの名前を呟く。

「シンク参謀長……」
「なに?」
「シンク参謀長のそういうとこ、私、全く理解できません……」

ぷう、と膨らませる仕草はあどけない少女らしく、だが普段の彼女とはおおよそかけ離れるものだ。「理解しなくていいんじゃない」そう一方的に話を切り上げると、なまえはむくれ面になり始終沈黙していた。

なまえの「使い方」を知る度に、別の何かも知るはめになり、その何かはボクの胸中を巣くっていく。

end.

それは淡いまぼろし title by.sorry mama

空っぽのボクにはそのくらいが丁度いいでしょ?


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