柔らかいラズベリー色の土を踏み締め、飛び上がる。その刹那、なまえがいた場所に蒼破刃が抉る。ばっと粘土質の土が派手に舞う。回避で終わらないなまえは、飛び上がりざまに腕を奮う。

「どうしてあなたはいつもそう!」

放つは雷(いかづち)の槍。切っ先はユーリに届かんばかりに迫るが、彼は刀を一振りし相殺してしまう。それを読んでいたなまえは、体制を直す隙を見計らいまたサンダースピアを飛ばす。
軌道に誘導性がないことを知るユーリは、飛んでくる追撃を左右に飛び退きながらなまえとの距離をあっという間に詰める。

「幻狼斬!」

敵の背後を取り斬り込むという特性を持つ幻狼斬は、正面で構えるなまえの背後を取った。しかし、刃は届かない。
なまえの両手には、坤が握られていた。背中を守るように一本の坤が刀を受け止めているではないか。いつの間に、と舌を巻くユーリだったが、肩越しにこちらを見るなまえの瞳と視線があう。
射ると言わんばかりの、鋭利な目だった。

「何が不満なんだよ」
「自分で考えてみては?」

刃を寝かせ、坤をなぞるように滑らせる。金属が擦れる耳障りな音が鼓膜を刺激する。

「っ、!」

なまえとユーリの間に光が溢れた。弾けた光の向こうには、距離を取ったなまえがユーリを睨む。

「―――……、」

なまえの顔が、くしゃりと歪んだ。
ああ、泣くなと思ったとき、頭上にサンダーブレードが迫る。回避しようがない。直撃だ。いつの間に発動させたのだろう。こりゃオレの負けだ。

轟音が、地を揺らした。


きな臭い匂いが鼻腔を抜ける。
しかし、直撃したと言うのに不思議と身体にダメージを感じられない。ユーリは目蓋を持ち上げる。薄く立ち上る黒煙の先には、なまえの顔があった。真正面に。
なまえの背景には青い空。つまり、ユーリの体は仰向けで、なまえが真正面に見えると言うことは。

どんな体勢なのか把握して、思考が止まりそうになった。

ふわり。暖かな風が体を包み、微光が舞う。回復術だ。上がっていた息も落ち着いてくる。ユーリは擦り傷程度しか負っていないので、すぐに傷が瞬く間に消えていく。サンダーブレードを放ったなまえは自らその術を背中に食らった。ユーリを庇うために。
そのなまえは、苦渋の表情を一つも浮かべず、むしろ微笑んですらいる。

「おま……負けたよ、オレの負けだ」
「勝ち負けにこだわってたわけじゃありませ、ん、っ」
「負けず嫌いのくせに何言ってやがる」

なかなかこちらに倒れてこないので、なまえを抱き締めて無理矢理倒す。抵抗はなく、かくんとなまえの肘が折れた。

「無茶苦茶しやがって……はあ、」
「っ負けず嫌いなのも、無茶苦茶なのも、ユーリに言われたくありません!戦闘に疲れてどうしてこうなったのか忘れました……もう……」
「オレも忘れた。けどごめん」
「忘れたのに謝れるんですかあなたは」

なまえの頭を撫でながら、息をゆっくり吐き出す。

「そうツンケンするなって。お前がオレに武器向けるほどには怒ってたってことは、オレが悪いんだろうから、な。多分」

もぞりと身じろぐなまえは無言のまま、ユーリに体を預ける。
そうしていたら、空の色が変わり始めてきた。ゆっくり時間が過ぎていく。

「……ユーリ、」
「ん?」
「好きです」
「オレも。愛してる」

戦闘で走り抜けた場所は湿原からいつの間にか花畑に変わっていて、風がそよいで、名も知らない白い花が揺れる。ゆらりゆらり。夕陽で染まる白い絨毯、二つの影がふわりふわりたなびいた。

end.

愛と嘯き花に溶ける title by.幽繍

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