「お前たちの主は死んだ!!これ以上死者のために戦うのか!?」

やがて闇の中にホディールの首が曝された。

彼を討ち取ったダリューンの声に、兵士たちは戦意を喪失し、次々に武器を下ろしていった。
味方同士で斬り合ったのもいれて、二十人の死者が出ており、負傷者はその倍。王子一行への被害はほとんどなかったのだが、中庭をうろついて被害の状況を確認していたギーヴが、あるものに気が付いた。
石畳の上に投げ出された少年の身体の上に、覆いかぶさるようにして倒れている少女。どちらも、彼の知る者だった。

「……何してんだ、おぬしら」

少年も少女もぐったりしており、一瞬、やられたか!?と思って焦って駆け付けるが、外傷はなく、血も流れていない。

「……う……!?」

ギーヴが眉根を寄せつつ覗き込んだちょうどそのとき、少年が目を覚まして呻き声をあげた。体勢から見て、頭を打ち、少し気を失っていたようだった。

「おい、エラム――」
「ミトさま!ミトさま、しっかりしてください!」

しかし目覚めた少年は、ギーヴのことなど見えていないかのように、自分の上に覆いかぶさる少女の名を、血相を変えて一生懸命に呼んでいた。

「エラム、ミト、どうした!?」

やがてその声を聞きつけた他の仲間たちが集まってきた。その中でもやはり侍童の主が一番動転しているようだったので、ギーヴは「二人揃ってよく似てるねえ」と目を細める。

「ミトさまが、私をかばって……」
「ご、ごめんエラム……ちょっと腰が抜けて立てなくなってただけだよ……」

すると、ミトが生きていることをアピールするように少年の上でもぞもぞと身体を動かした。立ち上がろうとしていたが、やはり力が入らないようでまたふにゃりと少年の上に倒れる。

「い、いえ、ミトさまは私をかばって背後から斬られたはずです!」
「ミトは……無傷、か?」

エラムの主張に対し、ミトの背中を確認したダリューンは首を傾げた。

「は、はい……。暗かったのでよくわかりませんが、たぶん斬られたんだと思いますけど、やっぱり斬れませんでしたね」
「はー、なるほど、剣じゃ斬れないのか。不思議だねぇ」

傷がないのがわかったので、ミトはダリューンに助け起こされるが、力の入らない身体は猫のようにだらんと伸びている。
ダリューンは「おぬしを守ることは頭にいれなくていいのか、俺は決めかねている」と呆れたように少し笑った。

「私など守っていただかなくて大丈夫です。むしろ今みたいに盾にしてもらっていいので。万が一斬られたら、それから少し考えていただければ」
「……」

そこで、静かに見守っていたナルサスがエラムに手を貸し、「立てるかエラム。ミトの馬を引いてくれ」と早速指示を出した。

「は、はいっ」
「ミトはこちらへ」

エラムはミトのために何かせねば落ち着かぬようで、急いでミトの馬の手綱をとって、自分の馬とともに引いてきた。
一人では立てないのだから馬にもろくに乗れないミトは、ダリューンに手伝ってもらってやっとナルサスの馬に跨る。

「エラムを救ってくれたこと、礼を言う」
「仲間を助けるのは当然ですよ」
「そうではない。おぬしの身が危険に曝されたから礼を言っているのだ」

ナルサスの声は、どこか怒っているように固かった。ミトは彼がどうしてそうなのかわからず、眉を下げる。

「でも私、たぶん斬られないから、危険なんてないし、そんな大袈裟なことじゃ……」
「……」
「……本当に大丈夫ですけど」
「……馬鹿を言え。足が震えて立てぬのだろう」
「……」

ミトは、自分は斬られないからエラムの盾になっても大丈夫!と思って彼をかばったのでは決してなかった。むしろ斬られる恐怖が当然のようにあったのだが、エラムを助けたい一心で飛び込んだのだ。
恐らく、敵に傷つけられることはない。死ぬことはまだない。そういう法則になっているらしいから。しかしそれはなんの根拠もないことで、完全とはとても言い切れなかった。
だから恐怖も感じるし、実際に、あまりの恐怖で、倒れたあとはエラムの上から動くことさえできなかった。
敵の剣を避けずに、目を見開いたまま立っていられるか?そう訊かれたら、ミトは首を振るしかない。
ミトは下を向いた。ナルサスには、どうやっても見透かされてしまうようだった。

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