そんな紫堂櫂を見て、オレは思った。
オレは"知らない"とか"出来ない"と思うことが嫌だ。
満たされぬ今までの環境を打破するには、強くあることが必要だったけれど、多分オレは元来負けず嫌いなんだろう。
敗北を認めて、屈服だけはしたくなかったから。
それだけはブレていないと思う。
せりと出会う前からして、オレは"底意地"を磨き続けた。
磨いていることを知られたくなくて、飄々と振舞った。
結果さえ、即時に提示できればいい。
必要なときに、然るべき結果が出せればいい。
やれば出来るという経験から、オレに出来ないことなどないと思った。
出来ないものならやらなきゃいいだけで。
やりたくないものは、しなければいいだけで。
それが多分、"だらだら"とか"面倒臭がり"とかの表現になっているのだろうけれど。
だからこそかも知れない。
紫堂櫂を見るといらつくのは。
12年もかけてせりをモノに出来ないクセに、それでも一心に激しく、せりを求めるから。
オレと同じく"結果"だけを掲げて全力投球しても、せりを手に入れられないというのは、オレを愚弄している気にすらなってくる。
認めたくない。
あんな仏頂面と、同じ種の男だとは。
オレはあんなに不器用ではない。
紫堂櫂…。
お前何処までせりの理想の男になろうとしていたんだ?
神聖化されすぎて、"無縁"だってさ。
少し意識して貰えるようになったって天狗になりすぎてたな、ご愁傷様。
せりの思い込みは、ガンコすぎてそう簡単に払拭できないんだよ。
誰よりお前が知っているじゃないか。
いい気味だ…。
「神聖の方がいいだろう。俺はお前のように、女にだらだらしていないし」
オレの無言の視線の意味に気づいたらしい。
憎たらしい切れ長の目を、刃のように鋭くさせてオレを睨み付けてくる。
「別にだらだらはしてないさ。今は女抱くのに飽き飽きして女日照り。そこの犬と同じ、禁欲中」
「久遠の場合、意味が違うよね…」
咳が止まった紫堂玲が引き攣った顔で言う。
「そ、お前とも意味が違う」
そう言ってやると、端麗な顔が険しくなった。
何が"ぱふぱふ学園"だよ。
学校に行ったことのないオレへのあてつけか?
紫堂玲も…学校生活に憧れて、そんな妄想に走るようになったのか?
もっとアダルトな設定を好めよ、お前成人だろう?
そんなんでこいつらは満足してるのか?
オレだったら、せりが関わらないものには欲情しない。
せりの声が聞こえるわけでもあるまいし。
外界の男事情はよく判らない。
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