◇◇◇
3月14日――。
「うわー!!! 遅くなっちゃった!!!」
あたしは急いで、桐夏からロイヤルホテルのAホールに向う。
振り乱す鞄の中には、朝イチで貰った…櫂と煌と桜ちゃんからのお返し。
玲くんからは、バレンタインデーの時に逆チョコを貰ったあたしは、玲くんへのホワイトデーのお返しを、鞄の中に用意している。
玲くんは律儀な人だから、必ず…どんなイベントでも疎(おろそ)かにしないで、何か考えてくる。
だからあたしはそれ以上のものを考えているはずなんだけれど、まさかバレンタインで玲くんからの手作り…3段チョコケーキ(しかもホール)で貰えるとは思っていなくて。
玲くんは多才で、どんな料理も作れるし、どんな御菓子も作れる。
デパ地下にある有名菓子店より、絶対玲くんが作る方が美味しい。
1口食べれば、もう顔は溶ける、蕩ける。
――ふふふ、嬉しいね。おいしそうに食べてくれるのは。
平然と難易度高いものを作ってしまう腕を持ち、『芹霞に愛を込めて』――なんて、平然とトッピングしてしまう玲くん。
そんな玲くんに手作りのものでホワイトデーを返すことは出来ないけれど、だけどあたしなりに頑張ったクッキー。
絶対玲くんに渡そう…そう思って昨日電話したら、
――ああ、帝王ホテルAホールに来てくれる?
引篭もりの玲くんが指定したのは、何でホテルのAホール?
そこで玲くんは何をしているんだろうか。
待ち合わせは3時だったけれど、数学教師に呼び出されて…今は3時30分。
そういう時に限って、携帯を家に忘れたあたし。
更には櫂は、仕事で煌と桜ちゃんとで何処かへ行った。
だからあたしは走る。
走る。
走る。
紫堂系列帝王ホテル。
Aホールって何階だっけ?
確認しようと思ったら、看板がたててあって。
『神崎芹霞様 5階Aホールにて展示中』
なんだ…これ。
展示…?
玲くん、何してるの?
しかも…あたしの名前限定。
とにかく場所は判った。
5階、5階…。
エレベーターで上がり、
『神崎様 ←』
看板に沿ってあたしは走る。
ぐ〜。
あら嫌だ。
焦って運動したら、おなかぺこぺこ。
取り合えず、玲くんの処に行き着かないと。
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