「タカシ〜、とってくれたら朝までずっと一緒にいてあげるから」
うわ…。
だから頑張ってるの、あのチャラ男。
両替頻度が早いね。
それ…2枚目の1万円札じゃないか?
え?
そこまで賭けていて取れないの?
「タカシ〜、クレーンの天才なんでしょ?」
ああ、だめだよ…そこ掴んでは。
うわ…そこ行けば、戻っちゃうじゃないか。
重さと角度を考えようよ…。
ああ、駄目だな。微妙さを狙わないと、取れるわけないじゃないか。
あまりの下手さ加減に、彼らの背後から嘆きの溜息をつくと。
「うわっ、イケメン!!!」
女が僕に寄ってきて、じろじろ僕を見始めて。
その不快さに僕は思わず顔を顰(しか)めた。
「タカシ〜、それとらなきゃ、お前のお姫様浮気しちゃうぞ〜」
揶揄するような声は、このカップルの友達でも近くに居たのか。
「庶民臭い大根男に取られるぞ?」
「大根野郎だ、くぷぷぷ」
「今流行のオトメン?」
「あの人形好き!!? うわ、だっせ〜。趣味悪い」
「タカシでも取れないのに、大根男には無理無理!!」
僕にとっての大根の意味を何も知らない癖に。
大根大根と馬鹿にして!!!
気分を損ねた僕は、一切の野次を無視して、他のクレーンゲームを物色していたけれど。
「あ、ごめんね〜」
わざとらしく僕にぶつかった男…タカシは、ぶつかり様、大根を掴んで床に叩き付け、
「あ、ごめん〜。足で踏んじゃった〜」
何処からか集団の笑い声。
ぷちっ。
僕の中から何かが切れた。
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