そんな大根を通して知り合えた、おばさん達。
喧(やかま)しいけれど、優しい人達。
――玲ちゃん、甘い大根はね、根っこの穴が真っ直ぐのものを選ぶといいんだよ?
とか、
――ブリ大根の作り方教えて上げるからね。
とか。
――農家の人達が愛情を込めて育てた最高の大根なんだからね、美味しく美味しく頂きなさいよ?
とにかく僕は、"大根好きな玲ちゃん"として、料理について色々教わった。
この出会いは…大根のおかげだね。
「さあ、玲ちゃん。忘れ物はないかい?」
「おばさん、何度でも並ぶからね」
「玲ちゃんのためなら何でもいいよ」
あ…。
僕は慌てて、ポケットから小さい包みを出した。
「これお1人ずつ。市販のもので申し訳ないんですけど、日頃の感謝を込めて。1日早いですけれど」
おばさん達から黄色い声が出る。
「いいのかい、いいのかい!!?」
「おばさん達、玲ちゃんの"本命"に遠慮して…バレンタインチョコあげなかったのに」
「お返しではなく、僕の心です」
そうにっこり微笑めば。
「玲ちゃんいい子だね。早く"長い"片思いが実るといいねえ〜」
「もう"4.5年にも"なるものね〜」
心に痛い言葉までくれたけれど。
ホワイトデーは――
男の子の意思で、あげたい人にあげたいんだ。
「はい。頑張るつもりです。いつまでも」
「ふふふ、胃袋で愛を掴むんだよ!!!」
「料理を蔑(ないがし)ろにするんじゃないよ!!!」
「玲ちゃんの料理の腕なら、大丈夫!!!」
「じゃあ頑張るんだよ〜!!!」
ありがとう。
心を込めて、愛を込めて…僕は料理を作るから。
僕の愛が消えることがない証として、芹霞の中のホワイトデーの記憶も留めておきたいんだ。
僕はダンボールを抱えて帰路につく。
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