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思いがけず手に入った大根が嬉しくて、顔を綻ばせていた僕に、おばさんは不思議そうな顔を向けてきた

「若いのに…本当に大根が好きなんだねえ。最初から、大根料理を特に興味津々に聞いてきたものねえ。大根をカツラ剥きで薔薇の花まで作れるようにまで頑張っていたし。

ははは。そんなに大根にすりすりして喜ぶ子は初めてだ」

何か…恥ずかしいや。


「そこまで、その子の"大根おろし"が美味しかったのかい?」


僕を慕う芹霞が、初めて僕だけの為に作ってくれたのが…大根おろし。


僕は思い出して、笑みがこぼれる。


「その時、僕は風邪を引き始めていて喉が痛くて。

それに気づいたその子は、呑み込みやすいようにしておろして、はちみつをつけて走ってきてくれたんです」


嬉しかったな、あの時は。


櫂と桜が出かけていて、その時はマンションに誰もいなかった。


1人ひっそりと治そうとしていた時。


――玲くん、電話のお声変だったのは、喉が痛いんでしょう?


駆けつけた芹霞の両手には、どんぶり…山盛り2杯の大根おろし。

さらに…その上からどっぷりと蜂蜜掛け。


ちょっとおろしを掬(すく)ってみれば、ねばねば蜂蜜が垂れる。


言うなれば…

蜂蜜の大根おろし添え?


だけど君が僕を想って作ってきてくれたのだから。

両手に抱えて走ってきてくれたのだから。


僕は食べたんだ。


大根が辛くて堪らない、

だけど…甘くて堪らない大根おろし。


もうそれは…未知なる味覚で、むせ返ってしまったけれど。


――おいしい? おいしい?


君がそう心配そうに聞いてくるから。


――おいしいよ。ありがとうね。僕の為に本当にありがとう。


愛しさだけが募った。




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