「……。私は……」
何かを言いかけた時、桜ちゃんの手がカップにあたって。
煮沸中のカップが、あたしの手を掠めるように落ちてきた。
「熱っ!!!」
思わず手をひっこめて顔を顰めたあたしに、
「ごめんなさい!!!」
桜ちゃんが水道の蛇口を全開にして、あたしの手をとって水にあてた。
「芹霞さんに…傷でもついてしまったら…」
何だか泣きそうなその声に。
「ははは、掠めただけだし…誰も桜ちゃん怒らないって」
「そんな問題じゃないんです。私が、よりによって私が……」
芹霞ちゃんはなんて責任感が強い子だろう。
「大丈夫。治ったほらね」
笑顔でその手見せた時、床に転がったままのカップを踏み付けてしまい…
「い!!?」
あたしの足下で、ばりんという音と感触がした。
これは…痛い、かも。
「芹霞さん!!?」
桜ちゃんがあたしの足下に屈み込む。
「な、何でもない、へ、平気だから…」
絶対…破片を踏んづけて、切っているような予感…。
動いたら、叫び出しそうな予感…。
その時。
その足がふっと宙に浮いて…
「芹霞さん、失礼致します」
桜ちゃんが持ち上げたあたしの足の…靴下を脱がした。
突然の行動に吃驚したあたしは、よろけそうになり、慌てて流し台に腰掛けるけれど。
桜ちゃんの顔は至って真剣で。
「親指に破片、ささってる…」
うう、桜ちゃん…そのものずばりは結構響くよ…。
そして桜ちゃんは、何かを考えるようにして。
「芹霞さん…」
あたしを上目遣いで見上げて。
「消毒しなきゃ……」
その目が…いつもの桜ちゃんとは違って、ゆらゆら妖しげな何かを揺らめかせていて。
そして桜ちゃんは、
「!!!?」
あたしの親指を口に含んだ。
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