*******桜Side
私が緋狭様の元で修行するようになって、何回目になるだろう。
お忙しい暇を縫って、緋狭様は私を鍛え上げてくれている。
噂に聞いていた苦行には違いないけれど、それが全て必然と思えば堪えられる。
あの馬鹿蜜柑も、私に触発されたのか、真面目に基礎鍛錬をやり始めているようだ。
最近、芹霞さんは私に話しかけてくれることが多くなった。
それは特段嫌ではないのだけれど、芹霞さんを意識し始めてしまった私には、少し辛い。
幸い、私の想いは馬鹿蜜柑だけにしか気付かれていないからいいけれど、聡い櫂様や玲様にいつばれてしまうかと実は内心焦ってはいる。
だけど私の顔の筋肉は思った以上に強固であったのと、自制心によって、いつも通りの日々を貫いて…いるはずだ。
「桜ちゃん、髪短いままなんだね。由香ちゃんのウィッグ、しないんだ?」
「たまにします。誰かと会う時などは」
「へえ?」
「やはり髪の長い方が、男ウケするみたいですね。警戒心が緩くなって便利です」
「ははは、桜ちゃんらしいや。でも桜ちゃん、髪短い時はさ、前みたいな女言葉使わないよね。やっぱり"男の子"っていう名残、あるよね」
気付かなかった。
男装の時、以前の言葉遣いはおかしいと遠坂由香に言われてから、強制的に修正していたあの時のものを、まだ引き摺っていたらしい。
折角また女装に戻したというのに、何処かでまだ"男"を意識している自分がいるのだろうか。
それは危険だ。
そんな時、 目の前で1人の少女が数人の男達に絡まれている現場に遭遇した。
「うわ、ああいうのって許せない」
芹霞さんは鼻息荒く、腕をまくって今にも喧嘩に飛びかかりそうな気配。
だから私はすっと動いた。
「桜ちゃん!!?」
芹霞さんが私の名を呼んだ時には、男達は地面に寝そべっていた。
少女からは泣きながら感謝されたけれど、特に達成感とか満足感はなく。
芹霞さんが飛び出そうとしたから私が飛び出したわけで。
「桜ちゃんはクールだけど本当にイイ子だよね。あいつらだって、手加減して攻撃してるし」
イイ子。
何だか、胸にちくんと刺さるものがある。
「煌だったら、もっと叩きのめしていたよ、あいつ容赦ないから」
それは馬鹿蜜柑と比較されたからというものではなく。
「絡まれていたのが芹霞さんだったら…僕だって容赦しませんから」
気付けばそう呟いていて。
「は?」
「相手によりけり、ということです」
芹霞さんは難しい顔をして、うんうん唸っている。
多分、この人が相手なら、私の気持ちは何処までも本人に伝わらないだろう。
それは安堵と共に…哀しい心地がした。
この、息が詰まる感情が"哀"というものなら。
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