僕の腕を押し上げ、芹霞がもぞもぞと動いて忙しい呼吸をした。
「ち、窒息するかと思った。玲くん、あたし弥生に…」
「それ、嘘なんだ…。
2人きりになりたくて……」
偽りなく本心を告げて、僕は後ろからぎゅうっと芹霞を抱きしめた。
"お試し"を満喫することが出来なかった僕。
最終日も、2人だけの"おでかけ"すら出来なかった僕。
そんな僕と"おでかけ"したいと、試験勉強をする芹霞を間近にして、どんなに嬉しくてどんなに愛しさを募らせたか。
ねえ、僕と一緒に居たいんだって、そう思ってもいいの?
僕、自分に言い様に解釈しちゃうよ?
どんなに触れたくても、触れられなかった…僕の限界。
2人になれないなら、作ってやるまで。
「ああ…ずっとこうしていたいな…」
柔らかな芹霞の身体を、僕だけが独占して。
香しい芹霞の匂いを、僕だけが嗅げて。
僕だけのものになってくれたら。
切なくて、愛しすぎて。
泣きたくなる。
僕ってこんなに脆かったっけ。
僕ってこんなに執着する奴だっけ。
こんな汚く、暗い裏路地で。
こんな処じゃないと、君を抱きしめられないのは嫌だ。
もっともっと日の当たる場所で。
堂々と、僕のものだと連れ歩けたら。
僕のものだという証拠を、見せつけることが出来たら。
芹霞の携帯が鳴った。
この着メロは…櫂だ。
僕は唇を噛みしめる。
「頑張ってよ、勉強……」
そんなものに頼らず、君を手に入れる方法はないの?
「…芹霞と"おでかけ"したい」
一時のものではなく、もっともっとずっと一緒にいたいんだ。
「"お試し"させてよ……」
終わるものではなく、"永遠"にする為に。
ああ、だけど今。
先の未来のことより今。
偽りでもいいから"彼氏"と"彼女"になりたい。
特別な存在として、君に触れたい。
芹霞の携帯の着メロは何度も何度も流れては途切れ、終いには僕の携帯まで鳴りだして。
タイムリミット?
まるで現実を知らせるかのように。
芹霞が言った。
「プレ"お試し"しちゃおうか。内緒で」
芹霞はそう笑って、手にした僕の携帯の電源を切った。
「ははは、一緒に怒られようよ」
その笑顔は、太陽のように眩しくて。
だから僕は――
「すぐみつかるかも知れないけれど、ちょっとだけ早く"カレカノ"遊ぼう?」
手にある芹霞の携帯の電源を切った。
"遊び"
やるせないけど。
少しは心を開いていてくれているのが判るから。
櫂よりも僕を優先してくれるというのなら。
どんなことでもチャンスにしたい。
少しでも触れ合っていたい。
「そうだね、じゃあ…行こうか」
僕は――
芹霞の手を握った。
強く、強く――。
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