それは切なくなるような声で。
耳も尻尾も垂れているような…。
あたしはぶんぶんと頭を横に振った。
「俺と一緒に、こういう処歩くの…嫌だったか?」
少しだけ、煌の手が震えていて。
無理矢理笑いを作ってあたしを見た。
「そう…だよな。俺と一緒じゃ、恥ずかしいよな。…悪ぃ、俺馬鹿だから。もう帰」
「違うの!!!」
あたしは正直に言った。
「煌が…煌がね、格好よかったの!!!」
「……は?」
「凄く凄く格好よくってね、あたしの知らない人みたいで…煌もあたし置いて行くのかって思って…」
ぽろぽろ涙が零れた時、煌の目が苦しそうに細められ、無言であたしの手を掴むと大股で歩き始めた。
長い足を持つ煌の大股は、連れられたあたしには小走りになってしまう。
「ちょ…煌、何処へ…」
そして連れられたのは、シンと静まり返った非常階段。
更にあたしは壁に押し付けられて、目の前には項垂れて表情が判らない煌。
「どうしたの、何でこんな場所…」
声をかけたら、あたしの顔の横に片腕が伸びてきて。
お、怒ってるんですかあ!!?
しかしゆっくりと上げられた顔は。
「お前…反則だから」
肉食獣のようなぎらついた眼差しで。
「公衆の面前で、格好いいなんて…誘ってるとしか思えない」
迸るような色気までついて。
「ちゃうちゃう、そんなんじゃなくて…話をしよう、性…いや青少年」
逃げようとしたあたしに、もう一本の手まで伸びてきて。
「逃がさねえよ?」
ぞくりとするくらい、艶然と笑った。
「た、食べないで?」
何でそんな言葉が出てきてしまったのか。
「駄目。俺飢えてるから」
「じ、じゃあ、おいしいもの食べに行こ?」
引き攣りながらにっこり笑って見る。
「じゃあ…
いただきます」
「んんんっ!!?」
煌が身体ごとあたしにぶつかり、唇を奪う。
その動きは性急で。
本当に喰われるかと思うくらいの獰猛さで。
荒い息遣いに合わせて、下唇をはむはむと甘噛みされて。
そして片手であたしの前髪を掻き上げるようにして、壁につけたその腕に体重を乗せ、上の位置からあたしの唇に舌をねじ込ませてくる。
熱い異物があたしの舌に絡みつき、顔を背けて逃げようとしたあたしの頬を片手で元に戻して。
本当に"逃がさない"、その言葉通り…あたしは煌の熱さと匂いに閉じ込められて、くらくら目眩を起こす。
男。
何処までも男。
女のあたしがどうしても抗えない、そんな力であたしを抑えつけているようで。
それは哀しいようで、心地よく。
煌の乱れた息遣いに、心が騒いで。
あたしの心の中に煌が一杯に潤っていく。
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