「うわ、あんたまた何て敷居の高い処に…」
「俺だって初めてだ」
そう、俺が芹霞を連れたのは、雑誌の男モデルがやたらと推奨する、オープンしたばかりの店。
俺が今まで敬遠ばかりしていたデザイン系の店が1つの店舗に密集している。
英語の名前ばっかりで、ブランドに疎い俺はちんぷんかんぷん。
芹霞もちんぷんかんぷん。
だったら此処やめろって話だけど、俺はどうしても芹霞に此処での服を選んで貰いたい。
沢山ある"格好いい服"から、俺だけのことを考えて、俺だけの為に服を選んで貰いたい。
無謀だって判っているけれど、雑誌には"男が彼女に付いてきて貰いたい場所"だとも書いてあったし。
「あんた…予算ちゅうもん考えてないでしょ」
芹霞がぼそりと言った。
「金下ろしてきた!!!」
もう準備はばっちりなんだって。
店内に足を踏み入れれば、
「いらっしゃいませ〜」
やたら愛想のいい店員がやってきた。
「"彼氏"のような方には、ワイルド系が…ああこれ、新作なんですよ?」
頼んでもないのに、俺の服を選び始めて。
「ワイルド…ね。ふむ。じゃあ悪いけれど、選ばせて貰います〜」
まるで店員の服など目に入れず、芹霞は勝手に選び始めた。
「やっぱり、彼氏さんのお洋服は彼女さんが選びたいものですよね〜」
にんまりと店員が笑う。
「か、彼氏? か、彼女?」
俺の声がひっくり返った時、芹霞が服を手に抱えてやってきた。
「煌が大きすぎるからサイズが判らない。とりあえず試着してみて」
芹霞が持ってきたのは、ミリタリー系、ワイルド系、アメカジ系。
季節柄、上着が多かったけれど…
「レザーもいいですね、ボアもデニムもいい。体格良くてこんなに格好よかったら、逆に似合わないっていうのがないんじゃないですか?」
随分と口のうまい店員だ。
だけど…芹霞の選んだ服は、悪くないと思う。
かなりイイと思う。
つーか、俺はとても好きだ。
何か…橙色がアクセントになって、少しばかりはイイ男に見えてくる。
「ど、どうだ?」
一番反応が欲しいのは芹霞で。
芹霞の照れたような顔が見れればバンバンザイ。
服も欲しいけれど、もっと欲しいのは芹霞だから。
そう窺い見た芹霞は、泣いていた。
「は!? 芹霞!!?」
「煌なんて…嫌い!!!」
そう…駆けだしてしまった。
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