お前から、俺の甘さを取りに来いよ。
だけど思った以上に、芹霞からの舌の動きは、俺を刺激して。
俺の貪欲さが首をもたげ始める。
満足出来ない。
もっと、もっと。
まだ残る果実に苛立ちながら、少しずつその形を無くしてやる。
艶めかしい舌の動き。
口端から流れ落ちる唾液。
それを吸い取って、俺は芹霞を味わい尽す。
時折漏れ聞こえるか細い啼き声に、僅かに征服感が満たされて。
その時、イチゴが口からポロリと落ちて、俺の襟元に吸い込まれれば、
「イチゴ!!!」
今度は芹霞が俺を押し倒して、俺のシャツのボタンを開け始めて。
「…え?」
不覚にも固まってしまった俺の前で、鎖骨であたりで止まっていたイチゴを、覆い被さるようにして芹霞が口にした。
その柔らかな唇が俺の肌を掠った瞬間、
「……!!!」
あまりに突然過ぎて――
脳天に来るような痺れに、声を漏らしてしまって。
身体が跳ねてしまった反動か、芹霞にそれが伝播して…イチゴは芹霞の口から転がり落ちた。
それは、腹の方までコロコロコロコロ。
「イチゴ…イチゴ…」
「やめ…おい、芹霞!! やめ…っ!!!」
蹲(うずくま)り、思い切り肌に吸い付かれる感触と、咀嚼音。
上げられたその顔は、ありつけたイチゴの感触に満足げで。
妙な艶放つ芹霞の目と赤く濡れたその唇に、俺は目を瞑ってその拷問のような光景を堪える。
心臓が波打ち、息すら出来ない。
更に――
「イチゴ…もっとイチゴ…」
芹霞はそのまま…俺の肌の…イチゴが滑り落ちたその痕を、遡るように舌で舐め始めて。
丁寧に…緩急つけて舐め上げ、俺の首筋まで上ってくると。
「待った、芹霞、待て!!!」
俺は思わず大声を上げて、手で芹霞を突き放した。
「……。…へ!? あたし何やってるの!?」
無意識だったらしい。
「櫂、どうしたの!? 顔赤いよ!? 呼吸も凄くない!!? というか、あたし何で櫂に乗ってるの!!? ふ、服〜!!! 何ではだけているの!!?」
「……」
「ねえ、どうしてへばってるの、櫂!!! 具合悪い!!? 人呼んでこようか!!?」
「…いいから。少しだけ…放っておいてくれ。俺から降りろ。このままだと…キツい。ツラい。ヤバい」
三重苦。
「へ!!?」
「……はあ。何だよこいつ。どこまで振り回されるんだよ、俺」
顔を両手で覆いながら、俺は泣きたい心地になった。
本当に芹霞は、いつも予想外な行動をするから。
俺はもっと芹霞対策を勉強しないといけない。
8年もの努力を、一瞬で覆されないように。
もっともっとスキルを上げねば。
何があっても動じない俺になるように。
芹霞を翻弄できる男になれるように。
そう…俺は俺に、誓った。
*********
「2800円!!?」
「20分で完食出来なかったんだから、仕方が無いさ」
俺は笑いながら財布をしまう。
どうやら芹霞は値段を見ていなかったらしい。
「でも、半額で1400円なんて…それでよく人気あるよね」
ぼそり、そう呟いたのをレジを売った店員が聞いていたらしい。
「スイーツは魔法ですからね。2人で食べれば、喧嘩していても仲良くなれるんです」
「ふうん?」
「お疲れの方々の癒しにもなりますし。ラブラブ出来たでしょう、お客様も」
思わず俺は咳き込んだ。
「べ、勉強になりました」
赤くなった芹霞は、そう頭を下げた。
**********
「何よ、何であたしを睨むのよ、櫂」
「お前さ…俺以外で実践経験つけてないだろうな」
「は?」
「こういうことに"やれば出来る子"とか必要ないから」
「へ?」
「…もう勉強はやめろ。これで変な知識でも得て好奇心でも発揮されたら、俺は持たん。…イロイロと」
「????」
Fin.
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