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紫堂の御曹司が、世俗の待ち列に並んでいるよ!!!

その違和感に、笑いだしたい気分。


「何だ?」

それに気付かれ、睨まれた。


「……。お前さ、此処に…玲と来ようと思ってた?」

突然そう聞かれ、あたしは素直に頷いた。


「……はあ。やっぱりな」


何やら溜息?


「此処はな、スイーツも有名らしいが…ウリは違う」

その時丁度あたし達が案内されて。


「全て完全個室のペアシート。運ばれるものは全てカップル用」


薄暗い店内。

甘ったるい気分になるのは、スイーツ店だから…というものでもないらしい。


「お前…絶対、此処には俺以外と来るなよ? 無論、玲とも駄目だ」

そう念を押されて、あたし達はアジアンチックな…ワラで仕切られた個室に案内された。

席は隣に座るらしい。


此処、ひと言でいえば…。

喫茶店なのに…怪しすぎる。


何だ、此処は。

固まるあたしに苦笑しながら、櫂はあたしの手をひいて隣に座らせると、メニューを開く。

そのメニューは…

「うわ、おいしそう!!!」
「あまったるそう」

櫂とあたしは同時に声上げて。


「やっぱさ、櫂…甘い物苦手なんじゃないの?」

「俺に苦手なものはない」


いつも通りの返答で。

別にいいじゃない、苦手なら苦手で。


「どれにしようかな…『当店人気No1 ラブラブパフェ』なんじゃこりゃ。『このおいしさはやみつき〜 時間内に2人で食べれたら料金半額!!』。ほほう、半額だって!! おいしくて半額なんて…正にあたしの為にあるようなパフェ!!! これでいいよね!!?」

「あ、ああ…」

何だか櫂の顔が引き攣っていたけれど、あたしは意気揚々とそれを注文した。

「ねえ…スイーツ店ってさ、自分の注文していないものでも、ウェイトレスさんが運んでいるのを見て、あれもいいなこれもいいなって妄想膨らむものなのにさ、こうして区切られてたら…全然妄想が出来なくてつまんないね」

ひくっと櫂の片眉が動く。

「い、いや、櫂が連れてきてくれた店がつまんないとかじゃなくて、こういうコンセプトが…はは、ちょっとお隣さん覗いてみようかな?」

雲行き怪しくなってきて、あたしは話を逸らそうと…そろっと仕切りとなってるワラに手を伸ばして、


「せ、芹霞!! 動くな、見るな!!!」


あたしに覆い被さるようにしてその動きを止めようとした櫂と、あたしがワラをずらすのがほぼ同時で、


「……」

あたし達は椅子に倒れ込みながら、ずれたワラの隙間より…濃厚なキスをぶちかます隣のカップルを見る羽目になる。

その後が気まずい。

別に喧嘩をしているわけでもないのに、あたしと櫂は別方向を向いて、溜息しか出てこない。


此処は純喫茶だ!!!


その時、『ラブラブパフェ』が運ばれてきて。

20分の制限時間付だ。

その量、その飾り付けにあたしの目はキラキラした。

まさしくあたしの為にあるようなパフェで。


「1人で食べれるんなら…どうぞ?」


少しばかり、端正な顔が引き攣っている。


「本当!!?」


櫂の首根に抱きつくと、櫂が不自然な咳をするから、あたしは小さくなりながら上に乗っているアイスをスプーンで掬い、口に入れた。


「すごく、おいちい〜」


涙まで出てくると、テーブルに肘をつけてあたしをみていた櫂は笑い出した。






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