SS_MENU | ナノ


********芹霞Side


あたしの人生の中で、櫂と2人きりで出かけた回数は、100、200では桁が少ないと思う。

それくらい櫂という存在はあたしの中では濃いもので、だから8年前の変貌はショック極まりなかったんだけれど。

17歳の今。

こうして昔とは違う姿で共に出歩くのは、嬉しい反面…凄く気恥ずかしくて仕方が無い。

一生懸命普通を装っていたけれど、昔のようにすぐひっついていたくなる。

あたしの身体が、昔の日常を覚えているから。

妙に離れた空間が寂しくて、その隙間を埋めてしまいたくて仕方がない。

だけど櫂は、やはり昔のようにくっついてくるわけでもないから、会話だけしていたけれど。

女避けだとあたしの方に手を回してからは、何だかべたべた…。

絶対女達の顰蹙(ひんしゅく)を買っているに違いないのに、その端正な顔は実に和やかで嬉しそうで。

そんな顔見ていたら、やはりあたしが折れねばいけない。

うう、その…吸引力抜群の色気だけでも何とかしてくれないかな。

櫂のフェロモンにあたしまでやられそうで、動きがぎくしゃくしてくる。


書店では櫂の眼鏡。

この男…何処まで自分の"美貌"に無自覚で無防備なんだろうか。

別にあたしの前で警戒しろと言っているわけではなく、どうして世の女が卒倒しそうなことばかり選んだように平然とやってしまうんだろうか。

この熱すぎる視線の中、何…物憂げに本なんて読んでられるんだろうか。

それに半分、英語じゃない。

しかもあたしとおでかけしたいとか、真剣な顔で言ってくるし。

あたしにどんな反応をさせたいんだろう、櫂は。


更に…こんな公衆の面前で、


"俺…お前が好きだって言ったよな?"


一斉に向けられる敵意。


あたしは縮こまってしまった。


ごめんなさい、こんなあたしでごめんなさい。


やばいんだって。

そういう流せないようなことを、さらりと言って…現実を思い知らせないで。

うう。もっと綺麗で、櫂に釣り合う女に生まれていたのなら、少しは違ったのかな。


例えば緋狭姉であったら……。

………。


駄目だ。

どう考えても、櫂が遊ばれているような図にしか思えない。


櫂はどうも玲くんとのおでかけを快く思っていないらしい。

そこまで玲くん好きなんだねって言いたかったのだけれど、段々櫂が疲れたような顔をして、スイーツ巡りに行くと言い出した。

本屋に来て本も買わずに、手をひっぱられて書店を出る。

スイーツ巡りは、学校帰りによく煌と櫂とで行っている。

煌は体脂肪がどうの女の食い物だとか文句を言う割には、バイキングになるとあたしと張り合って全種類制覇しようとするから、まず奴の甘い物好きは決定なのだけれど。

櫂がよく判らない。

スイーツ店で食べるものも、ほろ苦系とブラック珈琲ばかりだし。

甘味が苦手なら、ついてこなければいいのにって思うけれど、そういう選択肢はないらしい。

8年前?

勿論、櫂は甘い物が好きで…あたしより遙かに多くしきりに食べていたし、ミルクにも大量の砂糖入りで飲んでいた。

変貌は…味の好みまで変えてしまったのか、それともただの櫂の痩せ我慢なのかは判らない。


櫂が連れてきたのは、玲くんがよく言っていた"女の子に人気の店"。

玲くんとおでかけの際には、是非連れてきて貰おうと思っていた場所の1つで。


「ねえ…櫂、何で知ってるの?」


見渡せど、カップルばかり。

そりゃあそうだ。男女同伴が原則の不思議なお店なんだから。

だけど櫂は何も答えず、あたしの腰に手を回して長蛇の列に並んだ。



- 5/9-


[ *前 ] | [ 次# ]

ページ:


しおりを挟む


SS TOP


BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -