05-6
 部屋に戻るまで、誰にも会わなかった。
「あの、ありがとう」
 送ってくれてありがとうと言う。
 けれどひとつ、首を横に振られた。部屋の扉を開けると同時に押し込まれ、トーゴも一緒に入ってくる。
「ちょ」
 ばたばたと物音たてていた。
 だからだろう、コウがひょいっと顔のぞかせた。
「あれ、トーゴどしたん。セッキと朝帰り?」
「いや、そうじゃなくて!」
「はは、冗談。知ってる。管理人とこに世話になってたんだろ、熱だして。なんかあればあそこに避難するのが一番だぜ。シンキもあの人には逆らわないから」
「シンキ」
 トーゴがその名に反応した。そして俺の方を見る。
「どういう関係だ?」
「あ」
「隠すな、言え。せっき、言え」
 突然に、だ。普通に話せている、ような。
 トーゴのそんな様子にコウはあーあ、とため息落として、落ち着けという。
「ああ、意味わかんないよな。こいつブチきれるとこうなる」
「え?」
「いつもは意識どっかいってるような感じなんだけど、キレるとこうなる」
 この流れでどうしてそうなるのか。驚きと、どういったらいいのかわからない。
 けど、答えてどうなるのか不安があった。
 でも、俺は言う。
「幼馴染、だけど」
「幼馴染? シンキのほうはそうじゃねーだろう」
「そうだけど。でも幼馴染だ」
 俺はそうとしか思っていない。
 そう伝わるようにはっきりと言い切った。
 トーゴは眉根寄せて、不機嫌そうな顔で出ていく。
 乱暴にドアが閉まる音が聞こえた。
 そんな様子にコウは笑う。
「気づいてるのかそうじゃねーのかわかんねぇなぁあれは」
「意味がわかんないんだけど……」
「説明してやってもいいけど……とりあえず寝といたほうがいいんじゃないかな」
 顔が赤い、と言われた。
 ぶり返すのはごめんだ、俺はおとなしく頷いた。
 自室の部屋、ベッドの中に俺はいて。床にコウが座っている。
「こうやって面倒みるのは久しぶり、かな」
「そうだね」
「っとー……お前はあんまりこういうのは好きじゃないんだろうけど」
 トウゴとシンキの話をしてやるとコウは言う。
 トーゴとシンキ。二人の関係を確かに俺は、知らない。
「一言でいうと、俺から見るとだけどな」
 あれはトウゴの八つ当たり、嫉妬そういう類だとコウは言う。
 何に、というところは意地悪く笑って教えてくれない。
「トウゴがシンキに……意識向けて突っかかり始めたのはお前がきてからだから」
 原因はきっとお前、と言われた。
 原因が、俺?
「うろ覚えなんだけどな」
 ねこ、いじめる、邪魔。
 そういっているのを聞いたことがあるという。
 それと行動から推論するに『トウゴのお気に入りのねこをシンキがいじめるから邪魔』ということなんだろうとコウは言う。
 けど、トーゴと俺の接触は数えるほどだ。俺はともかく、トーゴが俺を気に入る理由がよく、わからない。
 けどそれはトーゴにしかわからないこと。コウに言っても仕方ないのだろう。
「お気に入りのねこをいじめるから叩きのめす、ってとこだろな。でも、おまえはいなくなった」
「あ……」
 それからもトーゴはシンキに、臣に一層突っかかっていたらしい。
 ねこを返せ、と。トーゴは何も言わずにいなくなった俺が戻ったのだと思ったのだろう。
 それは、あってる。
 でも臣はねこが俺だとは、結びつかない。結びつかないでいた、はずだ。
「こうなれば、お前の今の状況って、望んだ通りだよな」
「……そうだろうか」
「そうだろう」
 トウゴはお前を自分の世界の内側に入れている。それがシンキに付随して、なのか。
 それともお前個人でなのかは、わからないけれどもとコウは言う。
 俺は、俺個人があったからだと、思いたい。
 そう、思えたら幸せだ。
 これが望んだこと。
 本当にそう、なのだろうか。
「トウゴがお前を気に入ってるのは間違いないと思うけど」
 さぁ、どうする?
 コウは楽しそうに笑う。俺がどうするのか、楽しみだと。
 悪趣味、と思う。
 どうするんだろう。本当に俺は、どうするんだろう。
 どうすれば、いいんだろう。


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