部屋に戻る。それには臣もついてきた。
コウはいないようで、そう知ると臣は部屋に上がりこんでくる。リビングで待っててと言って自室に入ってひといき。
臣はトーゴと少しばかりやりあったらしい。でも、それはどうってことないみたいだ。
トーゴが貸してくれた? のかはわからないけど。トーゴの服は俺が持っている。
臣がそれをよこせといったのをなんとかかわして今は俺のベッドの上に。
濡れたままの髪をふいて、シャツを抜いで着替える。
それでも、水をかぶって冷えた体はそのままだ。
「ちょっと寒い……」
風邪、ひいちゃうかも。そう思いつつ俺は臣のところへ戻る。
「大丈夫か?」
「多分。調子悪かったら帰って寝るから」
「それなら休め。俺の部屋で養生しろ」
まだ一日しか学校にいってないのにそれはさすがに。
それに臣の部屋で、ってどういうことだ。完全に囲い込む今までのパターンと似るじゃないか。
「いいから。学校行こう」
無理やりに、そう言って俺は臣を部屋から出す。
ちょっと辛いかもしれないと、体の方は正直で。俺が熱を出すまではあっとゆー間だった。
だから休めと言ったのに、と臣からの視線での抗議。
何も言えなくてただ笑い返した。寮まで送る、という臣だけれども俺は断る。
臣の後ろ、臣にしかできないことを詰め寄る生徒の姿が見えたからだ。責任は大事だとか言ってたよなとか。
あいまいな記憶だけもっていいからと突き通した。
体が熱くなってくる。熱は少しずつ上がっているらしい。
ふらふらしながら進んで、寮のエントランスが見えてきた。けれど、なんだかそこまで体調が持ちそうにないなぁと思う。
ふーっと長い息を吐く。
もうちょっともうちょっと。そう思いながら進んで、体がぐらついた。
あ、こける。
そう思ったのだけれども、そうならなかった。
誰かが俺を受け止めていてくれて。
けどそれが誰か、その時の俺にはわからなかった。
暗く閉じられていた意識が戻る。
そのきっかけはひんやりと、気持ち良いと感じるもの。
それは何だろう、と俺は手を動かす。あ、手だ。手。
そこまで認識してあれ、と思う。
これは臣の手ではない。臣の手ならもう少し、大きくてごつごつしている。
誰。
そもそも、今俺は誰かに抱えられて座っている。この手はその人の者だろう。
じゃあ、誰。
誰だ。
恐る恐る、俺は後ろをちらりと見た。
そしてああ、と思う。やっぱりそうだった。この手には覚えがあった。
「トーゴ……」
俺を抱えたまま、すやすやと気持ちよさそうに眠っている。俺が動いてトーゴも身じろぎした。
そして目を覚ます。
「……おはよ」
「おはよう、ございます」
「やっぱりあつくなってた」
あつくなってた。
あつくなる。
熱が出るっていってたのか、朝のは。俺は小さく笑った。
まったく、わからないわけではない。
「トーゴ」
「?」
「俺、あんたが好きだよ」
何の気まぐれだろうか。
俺自身もそんな言葉がでた事に後から驚く。言った後に、驚いて瞬いていた。
「すき……」
いきなりこんなことを言われたらトーゴも困る、か。
感じるところがなにかあったのかもしれないけれど。俺の落とした言葉への反応はもう一度、同じ音を紡ぐだけだった。
「ふふ……」
笑いがこぼれた。本当に、何を俺はしているのだろうと。
どうしてこうなっているのだろうと。
「臣に見られたら殺されちゃうかも」
そんな呟き。ぼーっとしてるからだろう。知らず落としていた。
そしてそれを、聞かれていたのだ。
「殺しゃしねーけど」
「え?」
真っ青になる。
ぼーっとしていて、熱があってもわかる。そこにいたのは紛れもなく、臣だ。
なんで、どうしてここにいるのだろう。
足止めを食らっていたはず、なのに。
「急いで終わらせて、お前に部屋にいったら反応ねーし、寮の管理人に言ってもみてねーっていうし」
探してみればこれだ。どういうことだ、と臣は言う。
隠し通すことはもうできないのかもしれないと、思った。