05-2
「シンキ、外」
「あ? ああ……それくらいはお前、理解できんだな」
 短く外、と。
 それは此処ではダメだからとトーゴが理解しているからだろう。
 行ってくる、この間に飯を食っとけと臣は言う。俺はひとまず頷いた。
 臣が出て行く先、トーゴが何処か楽しそうについていく。
 俺の前を通るとき、もう俺は見えてない。
 悔しい。一瞬、向いた視線がとても嬉しかった。心踊った。でもそれはすぐ臣に取られてしまった。
 とても、悔しい。
 そんなこと思う俺のお腹がなった。
 そういえば昨日の夕飯食べてない。
 空腹に吊られて俺はそこで朝ごはんを食べた。サンドイッチとコーヒー。
 どれも美味しい。
 ゆっくり、もそもそと食べ終わって、コーヒーを飲んでいると俺の前に誰かが立った。
 臣なら、まず俺の名前を呼ぶだろうけどそうじゃない。それに複数だ。
 俺はゆっくり、顔を上げた。
 そこに居たのは可愛らしい顔をした子たち。
「君、丙様の何なの?」
「え?」
「あんな、丙様にべたべたして!」
「……べたべた?」
 引っ付いてくるのは臣のほうだろう、どうみても。
 臣に盲目な子たち、ということか。話には聞いていた気がする。それにしてもこんな朝から俺につっかかってくるなんて。
 ああ、臣がいないからか。
 ……煽っちゃおう、かな。
「そうだね、俺と臣はいつも一緒だけどそれが、何?」
「なっ……! あ、あんたなんか丙様につりあわない! 離れなよ!」
「今ならまだ何もしないでいてあげるし!」
「つりあわない、離れろか……」
 その言葉半数して、俺はその子たちににっこりと、笑み向けた。
「臣にいってよ、それは」
 その言葉に彼等はカッとなった。
 近くにあったピッチャーつかんで俺にそれをぶちかけた。
 その様に食堂で成り行きを見守っていた人たちは絶句したみたいだ。
 冷たい。
 でもこんなの、別になんでもないなぁ。
「ねぇ、俺が非力だとでも思ってる? 俺は臣の隣にいるんだよ?」
「っ!!」
「君達くらいなら、簡単に殴り飛ばせると思うよ」
 わざとらしく言って、拳握る。そこから視線を彼等に動かした。
 そうすると彼等はぱたぱたと足音立てて去っていく。
「水でよかった」
 彼等が去っていく背中みつつ俺はため息一つ。
 お湯や何か飲み物だったらもっと惨事となってただろう。
 水でよかったといいつつこれは着替えないとまずい。このままだと風邪を引く。
 けれど、それよりも。臣とトーゴが気になる。
 濡れたままでもいいか、と。ここにいて食べてろといわれたけど。
 食べた後はどうしろといってない。そう言って切り抜けよう。
 寮からでると人のざわめきがあった。そちらにいけば居る。そんな気がして近づく。
 トーゴの蹴りを臣がその腕に受けながらいなす。その間に懐に入って繰り出した拳。それを今度はトーゴが掴んで、そのまま膠着する。
 お互い本気では、ないんだろう。
「お前、刹生に興味でも持ったか?」
 臣の言葉が俺の耳に入った。何を聞いているんだ。
 でもその答えが気になってしまう。俺はそこに割って入らずそっとその答えを待った。
 けれど、彼が紡ぐ言葉はどうやらその答えではないみたいだ。
「戻ってこない」
「は?」
「気に入らない」
「俺もお前が気に入らねぇ」
 言って、二人距離を取る。そしてそのまま、やめた。
 軽く、お互いの真意を探ったような、そんな時間だったらしい。
 臣は俺に気づく。それと同じタイミングでトーゴも俺に気づいた。
 トーゴは真っ直ぐ、俺のところへやってくる。臣は周囲にいた者達に囲まれてその挙動が一瞬遅れた。
「せっき」
 トーゴは俺をみて、突然。
 本当に突然だ。俺の頬をなめていった。かーっとそこが、熱くなる。
 それは臣のいる場所からは見えてはいないようだった。
 トーゴは悪戯が成功したように笑って、そして何かに気づいてきていたパーカーを脱いだ。
 そして俺の頭の上にそれをバサッとかぶせる。
「あつくなる」
 それだけ言って、離れていった。それは臣がきたから、だろう。
 一方的に落とされた言葉ばかりだ。
 あつくなる、ってなんだ? 水をかぶったばかりだ、寒くなる、だろう?
 意味がわからない……でも、さっきまでトーゴがきていたもの。
 それが俺の手の中にある。
「おい、何話してた」
「え、いや……よくわからないこといわれた」
「は? あ、刹生。なんで濡れてる」
「あー……」
 水をかけられた。そういうと、臣は片眉釣り上げた。誰にと言われても名前も何もわからない。
 かわいい子たち、とだけ言っておいた。
「とにかく着替えろ。風邪をひく」
「あー、そだね」
 体が冷えている。冷えていく。その感覚はあった。


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