「目が覚めると朝だった……と」
俺は臣の腕の中でぐっすり熟睡だった。
横を見れば臣が居る。俺が寝ているところに潜りこんできたのだろう。まぁここは臣の部屋で臣のベッドだ。
仕方ない。俺が邪魔しているだけだから。
にしても、寝心地は確かに最高によかった。
「臣ー、起きろ」
「あー? もう少し寝てろよ……」
「あ、ちょ……」
ぐいっと抱き込まれてさらに身動きが取れなくなった。
もうこうなればどうしようもない。俺はじっとしているしかないのだから。
「臣ー、腹減った」
「せっき」
「っ!」
耳元、擽るような声色で名前を呼ばれてぞくりとする。肌があわ立つような甘さだ。
寝ぼけているのか、と思えばそうではないらしい。
その背中をなで上げ、首筋を指が這う。
「悪ふざけはやめろよ」
「ふざけてない」
臣は喉奥で笑って俺を放す。俺は身を起こして、伸びを一つ。
そしてもう一度、臣に言う。
腹が減ったと。
そういうと呆れたような顔をしてわかったと臣は言う。身支度整えて食堂へ。制服はもう昨日のまま。脱いだ服は臣の部屋においていく。きっと洗っておいてくれるだろう。
「遅い。先に行くよ」
「お前が早いんだよ」
ゆるゆると支度をし、やっと臣は出てくる。
そのまま一緒に食堂だ。まだ少し早い、そこにいるのは部活動の朝練がある人たちばかりのようだ。
彼等は俺達に驚いていているようで、ちらりと視てくるがぶしつけではない。
我慢は出来る程度だ。
その中で、一角。人のまったくいない空間があった。
そちらに自然と、俺の視線は向く。そこに居た人で俺の視線は釘付けだ。
トーゴだ。
トーゴがいた。
臣も気が付いたようで舌打ち一つ落とした。
「どうするかなぁ……」
「あ?」
「朝ごはんどうしようかなって」
零れた言葉にゆるりとフォロー。
どうするか、なんてどうやって臣とトーゴを接させるかだ。
臣もまた、どう対するかというか。俺をどうするかを考えているのだろう。
そんなことを思っているとトーゴのほうもまたこちらに気づいた。
弓引くように口の端吊り上げてその瞳が開く。その水の瞳が映すのは、臣のほうだ。
悔しい。
どうしてそれは、俺じゃないのだろう。
臣が彼からのその視線を俺にくれるのなら、俺は臣のものになってもいいかもしれない。
けれど、俺が臣のものになってその視線が俺に向くなんてことがないのは解っている。
「刹生、離れてな」
「わっ、と……」
臣が俺の背中を押す。離れろ、といわれたから一先ずそうした。
その時ふと、トーゴの視線が俺にちらっと向いて、そのまま固定された。
「せっき」
「え?」
「おはよう」
トーゴはそう言って俺に笑みかけた。俺の名前を覚えている。
トーゴは、彼は俺を彼の世界にいれてくれていたみたいだ。心震える。
嬉しい、そう思うと同時に臣から鋭い視線を受けた。
「刹生、どういうことだ」
言わないと殺す。そんな視線の強さ。俺は昨日、あったのだと返した。