「部屋でゆっくり聞くからな」
「しつこいと嫌われるよ」
「そうならないようにしたいんだけどな」
お前が悪い、というような口調だ。
俺がお前の手の内に収まらないのはいつものことだろう、と訴える。
けれどそれを臣は跳ねのけた。何が何でも聞き出す気なんだろうな、これは。
「刹生」
「臣……ドア、開くよ」
肩をすくめて笑って、俺は到着したという。
丁度のタイミングだ。丁度でよかった。答える事からにげて、しばらくの時間稼ぎだ。
臣の手が離れると同時にその間を抜けて先に出た。
舌打ちしつつ、俺を追い抜いて臣は自室へと向かう。ここはもう、ついていく流れしかない。
気づかれないようにため息を落とし、その後ろをゆるゆると歩む。
ここだと連れてこられた部屋は俺と格が違っていた。
「何この部屋ー、ずるい」
「生徒会役員、特待生と各委員長格の部屋は全部これだ」
「えええ……」
ずるい。
いや、今の二人部屋でも十分だけれどもこれをみたら、うらやましくなる。
台所、でかい風呂、寝室、そのほかにクローゼット。書斎にリビング。
特に風呂。風呂がずるいと俺は思う。
いろんなことをどうでもいいと思う俺だけども風呂はべつだ。風呂は気持ちよい。
広すぎるのはいろんなやつがいて面倒になるが一人が入るのにちょっと広いくらいは好きだ。
つまりこの風呂は最高に俺好みなのだ。
風呂だけここに入りにきたいと一瞬思ったけれどそんな考えすぐ打ち消した。
きっとここに軟禁されるだろうから。
その辺に転がってろ、と言われその通りにした。
リビングのソファに座ってテレビをつける。別にみたいわけではないけれど雑音が欲しかった。
そのうちに臣がコーヒーを持ってきてくれた。
ありがとうと受け取って口にする。砂糖一つ分甘い。
「臣はさー、もうちょっと俺から離れられないの?」
「無理だな」
即答。
幼馴染の俺への深度は下がるばかりか。
「離れることなんてありえねぇし」
病気だ、としか思いようがない執着。
どうしてこうなったのかはもう思い出せない。俺は何かしただろうか……もちろんそんな事に覚えはない。
忘れてるだけかも、しれないけれど。
臣の追及は止まらなかった。
同じことを何度も言う。それは俺がボロを出すのを待っているからなのだろうか。
でも俺も同じ答えを返し続ける。
此処でくじけてはいけない、押し流されてはいけない。
「お前に拾ってくれた人のこといったら、殴りこみに行きそうだろ。さすがにそんな迷惑かけられない」
「殴りこみなんてしない。礼をしに行くだけだ」
「だから、そうだと思えないんだよ」
「違うだろ。お前、俺が殴りこみにいくと自分が思うようなやつのところにいたから、そう言ってるんだろ」
「は?」
痛いところを。
そういわれてしまうと少し苦しくなる。でもそれを俺は表情には出さないようにする。
「違うって……そういうこと言うなら余計に教えられない」
「大体、俺が探してお前を隠せるやつなんてそうそういねぇんだよ」
「引きこもって外なんかでなかったし」
それは本当。俺は外には出てない。
「なぁ、刹生。俺はただ、知りたいだけだ」
その知りたいは怖い。
とても怖いと思う。だから絶対に言わない。
変わりに、笑ってやった。
「やだ。言わない、これはお前に対するイジワルだ」
そう言って、首元掴んでその顔引き寄せる。口の端舐めてやった。
これで我慢しとけ、って。
いつからこんなことがさらっとできるようになったんだっけとふと思う。
でもそれもどうでもいい。
「は……それじゃ足りない」
臣の瞳の色が揺れた。
引き寄せたのに、逆に引き寄せられた。唇割って入ってる舌が俺を翻弄する。
これもいつの間にか、受け入れていたなぁと思う。
いいんだろうか、これで、本当に。
俺はちゃんとこいつを拒絶できてないのかも、しれない。
そう、言葉では言っても
「此処にいる間に諦めさせてやるからな」
「えぇ? ああ……お前のものにならないって俺の意志? 絶対ない、いやだよ」
絶対いや。
もう一度言って、笑ってやった。きっとこの表情はゆがみきっている。