いつの間にか眠っていた。けど、拘束はそのままだ。彼に捕まったまま。
もそりと動けば、その手が弛んだ。
あれ、と思う。不思議に思っていると彼が起き上がった。
欠伸一つ、そして俺を視て吃驚して、笑った。綺麗に笑った。
「あの、怪我……ない?」
「ない」
その答えにそっか、と俺は零してのそのそと動く。
距離が近いし、ここはきっともともと彼の場所だ。譲るべく、背中向けて動いた瞬間、髪を掴まれて引き倒された。
「いっ!」
突然のことすぎて痛みに声が漏れる。そうしたのは、彼に違いないのだけれどもふと不安が過った。
なに、なにがしたいんだろう。
そう思っていると、彼の手が首を、首筋を撫でた。
「痕……」
「ああ……臣にやられたやつまだあるの?」
「おみ?」
「…………っと、シンキ」
告げれば、シンキと彼は呟いた。その瞳が揺れているのが解る。
そして口の端ゆがめて、笑った。それはもう、凄絶に。
俺はそれに見惚れた。綺麗だったから。
「シンキ」
もう一度、その名を呟いて彼は立ち上がった。
その動きはどこか楽しそうで、俺は止めることができない。
「あの」
声をかけても、そう。もう振り向いてさえくれなかった。
それから、俺は彼とあっていない。みていない。覚えているのは優しい、手の冷たさだけだ。
コウに聞けば、シンキを追いかけて遊んでいるという。彼の世界の中心は、今シンキなのだと。
俺はそれにぞっとした。そしてシンキに、臣に嫉妬した。
臣は、彼の世界の中に、今その中心にいると。
そしてコウと話しながら、俺は彼が好きなんだってやっと気づいた。
最初は見ているだけでもいいと、思えた。
けれど、心の中にぐずぐずにたまる感情がそうさせなかった。
彼の世界の中にいたいんだって。でも、彼の瞳の中に映れるかの自信がなかった。
だから、戻ったのだ。