「つまり、どこからいっても同じ、ってことか……」
「テンションあがるのは正面か後ろってことだよ。両方からかけてやれば?」
「両方かー……そうだな、そうしよう」
軽く投げた言葉で今日の戦術は確定してしまったらしい。
それでいいのかというような視線を投げれば笑顔だ。
「負けないから安心して。もし負けたら……逃げとけよ?」
「なんで」
「見つかりたくないんだろ?」
ああ、そっか。そうだった。
もしコウが負けたら、ここにきっと誰かがやってくるだろう。
敵地だし。潰しにくる。此処で見つかったら。
「……最悪だ」
なんでここにいるのか、って問い詰められるよなぁ。それは、うん。
それはとても大きな火種になりえる。
「負けないで、とか言わないの?」
「言ったら負けない?」
「さぁ」
はぐらかす。この男のこういうところは別に嫌いではない。つかませない危うさというのは面白いと思うからだ。
「負けなくとも五分にはもちこむけど、まぁゆっくり待ってろよ」
「そうする。行くところもないし」
「それと、そこ」
そこ、と指差された。それは俺がいる場所だ。
ここが、なんだろう。
「そこ、殴り合いしたあとのあいつの指定席だから」
「ああ、うんわかった」
あいつ、というのは彼のことに違いない。コウは、仲間に気をかけてはいるが一番は幼馴染の彼にだったから。
ここに、彼がくるのか。
今日の喧嘩が早く終わらないかなと思う。
俺はもう気づいていたから。俺はあの人の傍にいたいのだと。
心地よい距離感にほだされていた。
けど。
そう思って幸せなのはつかの間のようなもので。
夜、戻ってきた彼等の惨状は痛々しかった。痛々しいといっても、いい顔はしていた。
勝ちではない、負けではない。けど、楽しかったということはわかる。
それは彼も、だ。
俺のいる場所にやってきて倒れこむ。
そしてそのあたりにあった布切れを自分にもそもそとひきこんで、被って眠り始めた。
「寝顔……」
彼が来る事をわかっていたから、俺はその寝台の傍の床に座っていたわけだ。
そして、興味本位で覗き込む。
血のあとがある。もうそれは乾いているようで。
じっと視てたら、ぱちっと彼の瞳が開いた。そしてその色が弛むと同時に、俺はその腕の中にいた。
正直、どうしてそうなったかわからないけども。
彼は俺を抱き枕にしたみたいだった。規則正しく聞こえてくる吐息。
まぁ、いいかと俺はそれを受け入れる。
「おー……抱き枕にされたか」
「あ、おかえり」
そこをコウが覗き込む。俺は大丈夫だったのか、と声をかけた。
視ての通り、と笑い声が返る。
「んー……シンキとやりあってきた」
「どうだった?」
「潰し損ねた。それは向こうも同じだとは思うけどな」
Tシャツ捲りあげれば紫色のあと。痛そう、と俺は呟く。
「行っとくけど、シンキとガチでやったのはそいつだからな」
「え?」
コウが示したのは俺を抱き込んでる人だ。この人が?
シンキ、臣と?
見る限り、傷跡のようなものはない。互角にやりあったって、こと?
「回し蹴りを、シンキにぶち込んでた」
あれは頭揺れてただろ、とコウは零す。それでも立っていたシンキもまたシンキだが、といって。
そして俺を見た。
「そいつ、寝たら目覚めるまでそのままだから。ちなみに起こしても起きないから、よろしく」
「へ?」
それだけ行って、今日は解散とコウは仲間達に言い放つ。そして人がだんだんまばらになっていく。
いつもは誰か、一人くらいはここにいるのに今日は全員もういない。
いるのは、俺と彼だけだ。彼が目覚める様子は本当に、全くなくて。
俺は身動きとれないままでいた。