彼は一つ安心した、と呟いた。
あいつがここへ無理やり連れてきたのではないという事の確認がとれてよかったと。
あいつ、とは誰だろう。それは水色の瞳の人の事かと聞けば、そうだと言われた。
そして幼馴染であるとも教えてくれた。
「あいつ、言葉数は少ないわ、話の論点はずれるわで……何言ってるか理解するのが難しいんだよ」
ふらっとどこかへいって、何か拾ってくる。そんなのは日常茶飯事。
それが今日は、人間だったわけだと。
「安心しなよ、別にシンキに突き出したりはしないから」
わけありなのはわかった、と彼は言う。
そしてコウと名乗った。俺は、名乗らない。その方がいいと思ったからだ。
その様子にコウはまぁいいかと呟いた。
「にしても……どんだけ引き摺ってきたのか……」
「……今、何日?」
20日、とコウは答えた。俺はそれを反芻する。
俺があそこを飛び出したのは16日から17日に日付が変わる頃だ。
人に見つからない様路地裏の隅に隠れて。
それで、多分そこで一日くらいは過ごした気がする。どうでもよくなって眠り始めた記憶は、なんとなくある。
「ここに引き摺られてきたのは19日」
「1日……」
すごいな。
ということは路地裏で動かずにいて、2日もやり過ごせたのか。臣が探せってきっと言ったはず。いや、逆に近すぎて盲点だったのかもしれない。そういえば俺が隠れたあたりはゴミ捨て場の近くだ。臭いのはきっとそのせい。
その網、かいくぐって運んだ? ひきずって?
そう、体が痛いのは引き摺られたせいもある。あとは、動いてないせいだろう。
「考え事は終わった?」
「ああ、はい……すみません、ありがとうございます」
少しだけ、状況を整理できた。
一つ確実なのは、きっと俺はここからでなければ連れ戻されないってことだ。
「……なんかイメージと違う」
「はい?」
「シンキの横にいるやつは、いつもにこにこほわほわ笑ってただろ、どんな時だって」
アホみたいに。
アホは余計だろうと思ったけど、俺は否定せずに薄ら笑った。今更、取り繕っても仕方ないだろうし。
「うん、あれは演技」
「シンキに言われて?」
その通りという。ふぅん、と彼は一つ落としただけだった。そしてちょっとだけ興味が湧いたというように呟く。
「素の君も面倒くさそうな性格してそだけどね」
その言葉にまぁね、と返す。
なんだろう。こうやって対等、ではないかもしれないけど――顔色をお互い窺わないような感じで会話できるのは久しぶりだ。
シンキに対しては遠慮を、二人きりの時はお互いしないけれども。
なんだか新鮮だと思った。