息が苦しい。
臣が居ない隙をついて、臣が居ない時に傍に置いておくやつを出し抜いて俺は外にでた。
薄着で寒い。靴も片方どこかに落としてきた。
にこにこといつも笑っていることを義務づけられているような。
そんな場所を無理やり、俺を囲うもの突き破って傷だらけになりながら飛び出した。
後悔は、ない。このまま死んでしまっても別に、未練は少しあるかもしれないけど良いと思えた。
「はっ……はぁ……やっちゃった……」
溜まり場の奥の奥。俺と臣のためだけに作った部屋。
ふかふかのクッション。散らばる本も、音も。居心地が悪いわけではなかった。
けど、だめだ。
あそこは俺の心一つ、奮わない。
それに臣。臣が俺の地雷を踏んだ。今までだって何度か踏んでる。
でも今回は、それを受け流すことができなかった。今までが重なって。
珍しく。
違う、初めてもうだめだと思った。
「あー……」
首筋が痛い。ひりひりしてきたのは実感だろうか。
何度もここに噛み付かれたと思い出す。痛いから止めろといっても臣はやめなかった。
痛い場所をさすり手をみれば赤い色。血が出るまで噛み付いていたのかと知る。
きっと、逃げ出した事はすぐにばれる。そして連れ戻されるんだろう。
臣の執着を、最初は恐ろしいと思っていたのにもうそれは普通のことだと処理し始めているこの感覚。
どうでもいい、というほうがしっくりするかもしれない。
けれど、久しぶりに恐ろしくなって、飛び出した。
あとが怖いなぁと思いながら、入った路地裏に俺は腰を下ろした。
寒い。
11月の夜だ。それは当たり前だ。
ヒンヤリしたアスファルトの感覚。辛いけども、それが少し嬉しいと思った。
その場でじっとしていたら、よたよたと猫がおぼろげな足取りで近づいてくる。
年寄り、なんだろうか。やせ細った体は死期が近いのだと思わせた。
俺はその猫を抱えあげる。もう抵抗できないくらい弱りきっている。なんとなく、愛しかった。
その猫を抱えて、俺はそのまま瞳閉じた。
このまま見つかるなら、それもあり。このまま死ぬなら、それでもいい。
このまま誰か、臣以外の人に見つかるなら――それでいい。