「なんであいつがいいのか、俺にはよくわからないんだけどな」
頬杖ついて、コウは言う。
「あれはロクでもないやつだ。好意は全て、何か裏があると思ってる。だから忌避して見ない。敵意は逆に裏表がなくて、そういうものを向けてくる奴だけが信じられる、なんていう。そのくせ、人の心には鈍感だ。あとめんどくさがり。自分ととりあえず目の前にあるものだけでいいか、くらい」
その印象は俺も同じだ。
正直、そんな人を好きになるだなんて普通は思わない。
けれど、あの時の俺にはそれが全てだったから。あの言葉が。
それをくれたあの人は、別格なのだ。
「それに、お前も」
「うん?」
「お前もロクでもない」
そう、ロクでもないのはわかってる。
いわれて心地よいことではないけれども、何故だか許せる。
コウだからだろうか。それとも、俺が俺自身をもう諦めているからだろうか。
「ロクでもないけど、面白いとは思う。セッキがそうあるっていうのが、俺は楽しい」
「コウもロクでもない部類ではあるよね」
「うーん、まぁそうかもね」
コウはそう言って笑う。
同じ穴のなんとやら、だと。
そしてそうだ、とその笑い声を止めた。
「ひとつだけ断っとくかな。俺はお前の幼馴染と張り合ってるし、いつか潰すぜ?」
「ああ、どうぞご自由に」
潰す。潰す、か。それはとっておきだとでもいうような楽しげな声色だった。
俺はきっと、共倒れになるだろうと思っている。
「ここにはうちのやつらもいるけど、あいつ等はお前の顔、真っ向からみてないからきっと気づかないだろ。もし気づいたら自分で黙らせな」
「わかったよ」
答えれば、コウは楽しそうに笑っていた。
コウは静かで礼儀を知っていそうで、でも。でもそうじゃない。誰よりも闘争と破壊を望んでいるような、感じだ。
そしてそれを自分の中で押し込めているのを楽しんでいる。それに飽きたら、きっと何よりも躊躇のない容赦ない人間になるのだろうなと思う。
「さて、と。片付けは自分一人でできるか?」
「大丈夫」
「じゃあもう、再会はいいな。あとは好きにすればいい。あそこでもここでも、俺達の関係はかわらないだろ」
「そうだね」
必要以上の干渉はしない。暇があったら話す。
お互いに、踏み込まない。けれど気まぐれには認める。
そんな距離感だ。
それから、コウは部屋を出て行った。
出て行く間際に、きっと夜遅くまで戻ってこないからといって。俺はわかったと答えて、部屋の片付けに取り掛かる。
個室には窓一つ。その下に机。ベッドがあってクローゼット。あとは据付の小さな棚。
荷物は、少ない様で多い。
服は適当に持ってきたから、実のところどんなのが入っているのかよくわかっていない。
どうせ臣が選んだものばっかりだ。
棚には本を数冊。それはどうしても、というときの暇つぶし。
携帯の充電をする場所を決めて、俺はベッドに転がる。そこそこ、寝心地が良さそうだ。
「あー……」
喉のおくから落ちた声は思っていたよりも低かった。
少し、疲れたのだと思う。
雑に身の回りを片づけて、最低限だけ荷物をもってここへきた。
道中、ずっと車に揺られたりしていたのだから体は疲れているはずだ。
今日はもう、このまま寝てしまえと思った。
携帯が鳴っても、誰かが部屋に来ても反応しない。
そう決めた。
そして俺は眠りに入って、そう決めたとおり目覚めたのは次の日の朝早くだった。
時間は、五時。うっすら、明るくなってきた頃だった。