02.出会っているのに、出会えていない
 入った部屋はこじんまり。共有スペースには小さなソファセットがあって、俺たちは今そこに向き合って座っている。
 ソファの上に胡坐をかいて。別れた時は茶色だった頭の色が黒とのまだらになっていた。襟足だけ長い髪。軽薄そうな顔。右耳に一つ、左耳に二つあいた穴には今は何もない。
 あの人の幼馴染である彼は――津久野 庚矢(つくの こうし)というらしい。
 そうか、それでコウだったのか。
 なんて呼んだらいいだろうかと聞けば、何でもという。
 今までのようにコウと呼ぼう。学校の中では名前は呼ばない。
「ま、部屋の外ではお前と関わってないようにしとくからさ」
「そうしてくれるとありがたい」
「にしても……本当に、外でもそうだったけどべったりだなぁ」
「ああ……臣、ね」
 臣、それが幼馴染の名前。
 丙 臣(ひのえ おみ)。
 整った顔は、コウとはまた別の美形なのだろう。あれは王様だ。少し色素の薄い茶の瞳に真っ黒な髪。年よりも大人びえて見えるその風貌は、表情一つで子供にも大人にも変わる。
 壬と丙は相反するけど、そうではない家だ。昔からの長い付き合い、のような。
 二つの家は仲が良い。好意を向けあうような、そんな空気だ。
 束縛、執着。そういうものがなければ、臣はとてもいいやつだとは、思う。
 けれどそれを俺に向けている限りは、俺にとって臣は幼馴染以外の何でもないのだと思う。
 友達とも違う。親友とも違う。幼馴染という誰よりも長く知っているやつという立ち位置。
「酷いこととかはされてはないんだよ、な?」
「うん、まだない」
 子供心ついたころにはもうキスはしてた。深いほうも、中学あがるころには。
 気持ちが悪い、という感覚はなかったが決して、好んでするものではないなと思ったのを覚えている。
 その先は、きわどいところまでいったことは数度ある。だからまだ臣は譲歩して我慢してるんだと思う。
 基本的には、俺の気持ちも一応、尊重はしてくれている。だからこそ、その束縛を嫌だと思いながらも許容していたのだ。
 けど、あの時はそうじゃなかった。
 俺の意志を無視のような形でそんなことされて、余裕なくなって。周囲にあわせた自分と本当の自分との軋轢に耐えれなくなって。
 逃げたわけなんだけど。多分、それが原因だとは臣は思ってない。傍にあって然るべきと思ってるだろうから。
 けど、俺が次に臣の気に入らない事をしたらきっともうだめだろう。あれの本性もまた、暴君だ。
 嵐だ、暴風だ。荒れれば、きっと誰も抑えられない苛烈さで全てを潰す。
 それが俺であってもだ。
 完全に出口、塞がれてしまうような状態になると、思う。
 そうなる前に、俺はあの人に会いたい。
「なぁ、あの人は?」
「ああ、あいつ? 学校のどこかにはいると思うけど」
 所在はわからない。そうコウは言う。部屋はあるがいるかどうかは知らない。
 携帯鳴らしても、メールをしても反応が基本的にはない。けど、時々思い出したように返してはくるらしい。
 生きてる、とか。眠い、とか。
 そんな一言だけで。
 いいなぁ、と俺は呟く。
 そんな言葉にコウは苦笑を漏らすだけだ。
 彼と繋がりがある、コウが羨ましい。俺よりは、彼の世界の中にいるのだから。


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