開いた扉の先にいる人物と視線が合う、お互い驚くのは一瞬。
言葉を呑んだ。
扉の先に居たのは、あの人の幼馴染だ。
彼も、はたと瞬いて。
俺から、幼馴染と顔見知りと視線を巡らせていた。
「なんであんたらがいんだよ……」
「チッ、テメェが同室かよ……おい、こいつは俺のだ。手ェ出すなよ。出した瞬間、お前等つぶしにかかるからな」
強い言葉を彼は受け流した。鼻で笑ってだ。
「うるさいよ。俺とこいつにどう対そうと勝手だろ」
「はぁ? もー、ケリここでつけちゃうー?」
殺伐。
好奇の目で視ていた周囲のやつらもこれには驚いている様子だった。
瞳の端にそんな姿を見つけて、俺はため息を落とす。
こんないさかいもどうでもいいんだけど、なぁ。
「なぁ、もうういいから。大丈夫だから」
「あ?」
「俺は同室が誰だって、どんなやつだって別にどうも思わないんだよ」
だから放っておいてほしいと、少し苛ついてみせる。それは俺にとっては珍しい事、だろうからきっと幼馴染は引くだろう。
俺の機嫌を本当に損ねたくないだろうから。
「部屋、入れてくれる?」
「いいけど」
彼の幼馴染は身を引いて、その先に通してくれるようだ。
「明日、迎えに来る」
「必要ないよ」
「迎えに来るからな」
幼馴染はこの先には踏み入ってこないらしい。来るかと、少し思ったのだけれども。
入らない、を選んだのか。
学校の外でやりあってた相手の部屋になんて。
それに俺が相手にこんな調子だからきっと大丈夫だろうと踏んだんだろう。
けど、引き際が浅いのはまだ様子を視ているから、探っているからなんだろうなとも思う。
環境が変わる負担を一応、考慮してくれているんだろう。
それが逆に、幼馴染の甘さではあると思う。
視線だけ送って、俺はその部屋の扉を閉じた。
そしてその先にいる、あの人の幼馴染と視線があった。
「知っちゃいたけどさ、あれとお前がつるんでるのみるとウソだろって思う」
「は。散々夜に何度も、みてただろ」
「みてたけど、さぁー……」
さっきまでの表情と違う。
くしゃりと表情ゆがめて、ああでもこの表情は見たことがある。
困ったような、あの顔。
「はー……こんなに早い再会とは思ってなかった」
綺麗に笑う。
そして彼は今度こそ教えてくれるかなと言った。
何をだろう、と不思議に思う。それも見透かされていた。
「名前、ほんとの」
「ああ……」
そういえば、俺は名乗っていない。
あの人に助けてもらったあとも、話をしていても名は名乗ってない。
それは通り名でさえもだ。
「刹生。壬刹生(みずのえ せっき)」
久しぶりに、こうやって名乗ったなぁと思う。
彼はよろしく、と改めて言って笑った。
ここが始まりなんだと、思う。
あの人と俺と。
きっと色んな人を傷つけていく。そんなことは解りきった覚悟の上で。
どうでもいいことで。
俺は、あの人の世界に映りたい。あの人はきっと、世界に色がない。
そういう人なんだろう。
だから、俺はどんな色でもいいからあの人の世界に入りたい。
これは我儘だと、思いはすれど――もうどうすることもできない感情だから。
俺に唯一、今あるこれを満たしたいから。