「で、俺は部屋にいきたいんだけど」
「ああ、鍵は寮監が持ってるだろ」
幼馴染に言うと、ホテルのフロントみたいなとこを示された。
そこに寮監がいるわけか。
そこに行って、ベルを鳴らすと奥から一人、男が出てくる。丁寧そうな感じの、老紳士。
その人は俺と、後ろの幼馴染をみて何か察したようで。
「転入生の方でいらっしゃいますね」
「あ、はい」
「部屋は二人部屋となります。と言っても、部屋は中で分かれておりますので。部屋の番号は2611のお部屋でございます。何か困ったことがありましたら何なりとお申し付けください」
「どうも、ありがとうございます」
差し出された鍵はカードキーだ。
薄っぺらい。これ一枚でいろんなことができるらしいってのは聞いてる。
ほんとかそれ。
「2611ー? あー、それって、うーん……」
「知ってるのか?」
幼馴染が問う。顔見知りは生ぬるい返事しか返さない。
そこはやばそうなやつの部屋なんだろうか。どんなやつでも俺は別に構わないんだけど。
気にしないし、きっと接触しない。
「まー、いってみればわかる、かなー?」
どうせいくんでしょ、と幼馴染を見る顔見知り。
まぁなと幼馴染は応えて、俺に歩み寄って肩を抱いた。
おぉぉい……そうやって周囲に牽制かけても俺のこと気にするやつなんていないだろ……
「暴れんなよ」
「はいはい」
腰を抱かなかっただけ、譲歩なのだろう。俺はちょっといやだなぁと思いながらも受け入れる。
それが俺のほうの、譲歩だ。
ざわめくエントランス。きっとこれ、すぐに全体に広まるんだろうなと思った。
それがどう転がるのかは知らないけど。
そのまま、エレベーターに連れ込まれて。
あれ、顔見知りは乗ってこないの? しまるドアの向こうで手を振ってる。
ああ、ああ……これはよくないんじゃない?
ふたりきりだ。狭い空間にふたりきり。
幼馴染を見れば、その唇が模るのは俺の名前だ。
そのまま重ねられる。スキンシップ?
ふざけんな、これはそれ以上だろ。
明らかに情愛の篭ったそれを俺はただされて、受け流すしかない。
「……っ、気ぃすんだ?」
「全然」
口の端あげて笑う。
幼馴染はいい男だとは思う。けど、俺がほしいのは幼馴染のもたらしてくれるものじゃない。
これには、心奮わないから。
「お前がそんなだから、俺はずっとこうなんだぜ」
「知らない」
ふい、とそっぽを向く。そんなことを言われても俺にはどうすることもできない。
そんなやりとりの間にエレベーターはついて。
扉ひらくとそこには顔見知りがいた。
そうか、つまり階段ダッシュか。その忠誠心はどこからくるんだろうな。
「おつかれさまー」
むしろお前がだろう。
俺はちょっとだけ、顔見知りをすごいと思った。その視線に彼は不思議そうな表情浮かべているだけなのだけども。
「この部屋だな」
2611。
どんな奴がでてくるんだろうな。一応、先にチャイムを鳴らす。
中に誰かいる気配はあるし。返事があった。
「お前等、もう帰ってもいいんだけど」
「同室の顔見たら考えてやるよ」
それはその相手次第でまだ俺といるつもり、ってことか。
めんどうだなぁ。今日はずっとそんな気持ちばっかりだ。
そう思っていると扉が、開いた。