これは綺麗な思い出だと、思う。
あの日、俺はとても冷たいあの人に出会った。
彼は世界全部、拒絶するような人で自分を好くものに徹底的に辛くあたるような人だった。
そう、思ったのだが実際は、興味のあるないがはっきりしているだけ。
そしてその、ないという世界のほうが広いだけだった。
俺はああ、かわいそうな人だなぁとさえ思った。
けれどそんな彼は俺を助けてくれたのだ。きっと気まぐれか何か、なのだろうけども。
その一端の優しさが、あの時どん底にあった俺にとってはとても優しくて甘くて。
まるで、そう毒のようでもあったのだが。
参ってしまったのだ。救われたのだ。
そして欲がでた。
あの人の世界に映りたいと、入りたいと。
あの人から向けられる感情なら何だっていいと、思った。
彼の視界に映るにはどうしたら、いいんだろうか。
助けてもらった俺は、彼に礼を言ってそっと離れた。その言葉が彼に届いていたかはわからないけれども。
この関係ではきっと、何も変わらず何も生まないと思ったからだ。
大勢の中の一人ではいやなのだと。
好きになってもらう。それは難しいような気がする。
それなら、嫌いでもいいかと思った。
彼の世界に映って、俺という存在を認識してくれるのなら、それでいいかなと。
この感情は間違っているかもしれない。
けれど、もうどうしようもないほどに――飢えていた。
彼の世界に映ることに。
別れ際、こんな歪んだ想いを彼の幼馴染は笑って、そんな事する必要なんてないのにと言った。
「君はちゃんと、あいつの世界にいるよ?」
それでも、そんな実感がない。
本当に彼の言う通りなのかもしれないけど、俺は実感がほしい。
そういうと、困ったように彼の幼馴染は笑った。何を言ってもダメかな、と。
「君のしたいようにすればいいよ。けど、ね」
離れない方がいいと、思う。
彼の幼馴染は少し寂しそうに呟いた。でも、もう別れを紡いだ後。
やっぱりやめた、なんて言えない。
俺は彼の幼馴染に、古巣に戻ると伝えた。その言葉に彼は、驚いていた。
彼は知っている。俺が何処にいたかを。
けれど逆に、それを覚悟ととったのだろう。
もう何も言わない、と細く笑んだ。
そして、こう言った。
また会う事にきっと、なるんだろうけども。
その時の君とまた、友達になりたいと。