同室者
3−1.同室者



 最終的にだ。
 平謝りしてとどまってくれという理事長は、俺に在学中は学食タダにするという約束をくれた。これはでかい。
 あと何かあればすぐに連絡してほしいという理事長ホットラインの携帯番号。
 そして、そこで渡された寮の部屋の鍵。
 同室者は、戒田 朱貴というらしい。かいだ しゅき。
 知らない名前だな……当たり前か。
 寮までは看板もでていて、というか校舎から歩いてすぐだから間違えるわけもない。
 その寮監室で管理人に挨拶して、俺は部屋へ向かった。
 ちょっとどきどきするなーと思う。
 変な奴がでてくると、そう思っておこう。
 でもどーしよーもないやつじゃなければな。俺のどーしよーもないの基準はおとーさんだからな!
 どこでもしがみついてくるわ人の弁当全部食うわ、勝手にどこかに連れて行くわ……俺の都合も何も考えちゃくれねぇやつ。
 喧嘩も派手にやって、俺もいきたいなーって言っても駄目だという。でも、怪我すれば治療と……あれはおねだりだな。ひざまくらとか何がいいのか、と思うがしてくれたらアイスおごってくれるからまぁ、とんとんということにする。
 しかし本当に。
 あれ以上のどーしよーもないがごろごろ転がってたら耐えられないわー。
 そんなこと思いながら階段上がって端の部屋。
 一応ノックをするが返事がない。でも、中に人がいる気配はある。けど複数だ。
 友達でも呼んでるのかなぁ……騒いでたら聞こえないか。
 俺は一応礼儀のノックも果たしたので鍵を使ってあけた。
 あけたらだ。
「あっ、しゅ、しゅきさまぁ!」
「…………」
 ちょっと状況が飲み込めないなって思ったのでドアを閉じた。
 えっと。はい。はい。はい。
 うん。
 玄関あけてそのまま、共通の居間。ソファがあった。そこであの、甲高い声とか。
 ヤってた? 女の子連れ込んで? え、それやばくない……?
 どうしよ、とその扉の前で固まらざるを得ない。
 さすがに、さすがにこういうのは外海でもなかったな。
「どうしよー。しゅきさまーとか言ってたから限りなく、それが同室の奴だよな……」
 あー! 気鬱!
 てかこの、事後の部屋に入らなきゃいけないのしんどいな。
 時間をおいてにしようかなと思ったのだが。
 それより早く。
 がちゃりと扉があいた。
「……入ればー?」
「え、あ……お、おう」
 戒田朱貴だろう。一言でいうならイケメン。
 淡い茶色の髪は眺め。垂れた目はえろいと言えばいいのか。
 遊び人だなぁと思った。
 でも、おとーさんのほうがイケメンだから、別にびびらない。
「交換生だよなー? 荷物は部屋にいれてある」
「わ、わかった……あ、俺は相島 心」
 いや俺。今普通に名乗ったけど待って俺。
 この、この事後です状態の部屋に入ってふつーにしてる俺もおかしいけど。
 ふつーに入ればっていうこいつもおかしい!!
 ちらっと。
 ちらっと、俺は見た。ソファの上にいるやつ。はぁはぁと息を整えている様子で。
 くったりとした、細身のかわいい……かわ、いい……えっ。
「……男……? え、おい、ちょ」
「ああ、まだ追い出してなかった。ごめん」
「いやいやいやいや」
 俺は急ぐことはない。落ち着いてきてくれと言う。
 反対に、戒田は急げとせかすわけで。
 身支度を整えてぱたぱたと出ていくやつ。そして俺ににこにこと笑みを向ける戒田。
 そして思い出したように、知ってるだろうけどと。
「俺は戒田朱貴。よろしくー」
「ああ、うん……よろしく……」
 にこにこ。
 笑顔なんだけどこえーわ。




3−2.



 部屋に入って最初に言うべきは、やっぱりこれだろう。
「……一緒に生活するにあたって」
「うん?」
「さっきみたいなのは勘弁な。その、恋人とやるなら部屋……個室でお願いしたい」
「恋人?」
 恋人? と。不思議そうな声だ。
 それに感じる違和感。戒田はなるほど、そう見えたのかと頷いている。
「さっきのは恋人じゃないよー。あれは……あれはなんだろうな。セフレ? でもそれともちょっと違うかな……」
「は? いや、え?」
「……ああ、これだ」
 あれは俺の下僕。
 そう言って戒田朱貴はきれーに笑った。
 笑ったので思わず真顔になった俺は、一歩詰め寄って。
 思い切りその頭を叩いた。
「いった! な、なにすんだよー」
「お前、ちょっと座れ」
「なんで?」
「いいから……座れ」
 何か文句はあるだろう。そりゃあるだろう。
 でも俺も文句がある。初対面にこれはどーよって思ったけど。多分こいつ。
 初手にかまさないとあとあとお話が全く通じないタイプだ。
 絶対そう。絶対そうだ、俺こういうやつみたことある。
 そして対応を間違うと色々面倒。
 座れ、といって座る。足を崩しててろっと。
「……正座!」
「っ!」
 しゃきっとするような声色で声を大きくして言うと、戒田はしぶしぶと正座をした。
 俺はそれを、見下ろす格好になる。
「さっきみたいな」
「セックス?」
「うんまぁそう、それ。それな、そう言うのって好きなやつとするもんだろ」
「好きじゃなくてもできるし、たまるよねー」
「そうだな、たまるなー。でもな、まぁ今回はな。この共有スペースでやってたのは、今までお前が一人だったのなら、個人スペースみたいなもんだから」
 俺も、あんまり、言いたくない。
 許す、とは言いたくないけど、まぁ許す。
「許す? 何を? 何を許す権利があるの?」
「……そうだな。許す許さないはちょっとちがうな。ていうかそうじゃねぇよ」
 モラルの問題なんだよ!!
 これから人くるってこいつ絶対しってただろ? それ知っててあんな、いやその、ちゃんとは見てねぇけど! ちゃんとってなんだくそ!
 でも明らかにやってますぅ! みたいなそういうのはアウト。
「……何、お前みられねぇとイけねぇタイプなん? それなら俺の視界に入らない、そういうの好きなやつらとやれよ……性癖を悪とは言わねぇけど周囲への配慮は必要だから」
「別に、そういうの必要ないよねー。やりたいとこでやる」
 あっ……何言っても俺が中心系。
 でも、でもおとーさんよりはマシかな。あれはほんとどーにもならんから。
 最近はちょっと我慢を覚えてくれたけど。
「別にみられなくても問題ないけど? けどまぁ、そうだねー。二人になったから配慮は必要だねー」
 うんうん。わかってくれたならそれでいい。
「でもあいつらと自分の部屋の中でするなんていやだからやっぱりここかなー」
「死ねよ」
 俺は即対応だった。


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