交換基準
3−1.交換基準



 副会長の笑みを俺も笑って受け流す。深入りしてはいけないという予感。
 俺は、早く行こうと促した。
 案内してもらった理事長室。そこまで色々、尋ねられたが俺は適当に答えた。
「案内ありがとな」
「待って、心」
 呼び止められて、何と振り返る。
「一度も名前を呼んでもらってない」
「そう? えっと……御そ」
「麗で、いいよ」
「……ちなみに学年は?」
「二年だね」
 同学年かー! それなら呼び捨てでもいいか。
「麗、じゃあな」
 笑って今度こそ背を向ける。
 理事長室の扉ノックして、返事ひとつ。俺は失礼しますと、背中からびしびし視線をうけつつ、気にせず、中へ入った。
 中にいたのは、理事長。理事長室だからな、そうなるよな。
「相島 心君、ようこそ内山へ」
「お世話になります」
 長内 勇と名乗った理事長。年齢は50歳くらいかな。アラフィフ?
 どうぞと促されて座ったソファは思っていたよりもふかふか。体が沈んだ。
「これから一年間、よろしく。一年以上いてくれてもいいんだけどね」
「はぁ……でも、俺と……僕と交換した生徒が戻ってきますよね」
「ああ、うん」
 うん? すごくさらっと流された感じだ。違和感しかない。
 だから俺は突っ込んで、きいてみる。
「交換した生徒の名前ってなんて言うんですか? 外海の友達に教えておこうと思うんですけど」
「……いやいや、そういう心配は無用だよ」
「そうですか? でも、名前くらい僕も知っておきたいなぁって思うんですけど」
 にっこりと笑って言う。
 するとしばしの沈黙ののち、理事長さんはため息をついて内密にしていてほしいんだがと俺を交換した生徒の名を紡いだ。
 生徒の名前は、御来屋 神楽。
 この内海にて生徒会、庶務だった生徒だという。
 そりゃまた、優秀な生徒が……俺と交換になったな……というのが俺の感想。
「御来屋君は優秀な生徒でね。人当たりもいいし、仕事もできる。教師からの受けもいいし生徒からの受けもいい。そういう子だったんだ」
「そうですかー」
「けどね、その優しい性格ゆえ、色々なことを引き込む生徒でもあり……」
 色々なことを引き込むとな。
「生徒会の皆が彼のことを大好きすぎてもめごとが起きてね……彼は胃に穴をあけてしまったんだよ」
「へー、大変っすね」
 それで入院中なのだと、理事長さんは言う。




2−2.



 入院中?
 は? え? 入院?
「入院と知ると、彼の胃に穴をあけた生徒たちが押し掛けそうなので交換という体裁をとってね。いや、退院したら通うんだけど」
「はい」
「彼は他県の兄弟校に、ということにしてある」
 つまり。その御来屋というやつは。
 入院中で、俺のいた外海には行っていない。なおかつ、ここの生徒には他県の学校にってことになっている。退院したら、外海に通う。
 意味が分からん……え、別にさ。
 入院したってふつーに言えばいい話で。別に俺ら交換される意味なくね?
 俺、ここにこなくていいよな?
「……あの、俺別にここに来なくてよかったですよね。交換とかされる意味ないっすよね」
「いや、ある。ある!」
 ねーよ。
「御来屋とやつらには冷却期間が必要だ! 交換という体で出したからには生徒を一人いれなければいけない。外海に泣きつく思いでお願いしてしぶしぶ助けてもらったわけで!」
 やつら呼ばわりっておい。
 そんでもって、しぶしぶってなんだよしぶしぶって。
 おい。
「うちでの待遇は保証するから、どうか!」
「……いや、それ完全にそっちの都合で外海、っていうか俺とばっちりっていうのを今零しましたよね。正直関係ないって話っすよね……そっちの都合のつじつま合わせですよね……」
 ぐっと理事長は黙る。しかしここで引かなかった。
 ぽろぽろと愚痴のように零し始める実情。
「うちの生徒会の生徒は、金持ちでわがままで、御来屋がいないと暴れるようなのをなだめてどうにかして納得させてある。あの生徒たちは! 入院と聞けば御来屋のところに入り浸る! ということでわからなくしており、そこで交換生がこなければ……ウッ」
 あ、この理事長も胃に穴が開きそう。
 なんとなくだが御来屋ってやつが大変だったのは理解した。
 納得はできないが、きてしまったしな。今、戻るっていっても、戻れなさそうな感じもあるしな。
 どうかお願いしますと、ローテーブルに頭をつけて頼む理事長。
 俺はとりあえず、なんで俺だったのかを聞いてみた。
 すると答えは、一番ストレスに強そうだったから、と言われて。
 微笑むしかなかった。


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