2−1.交換、一日目
「痛い……ずきずきする、くそぅ……」
昨日、思いっきり噛まれたところをさすりながら、俺は通う事になる内山高校の前に来ていた。
うん、なんか外海と違うくね?
なにこれ校舎でかい。綺麗。なんだよこれ本当に兄弟校なのかよ!
色々ぐるぐる、頭の中で文句やらなにやら。
そういったものを掻き混ぜながら、俺は門の傍にある守衛室に向かった。
「すみません、今日からここに交換で入ることになった相島なんですが」
「はいはい。あれ、親御さんは?」
「や、忙しいんで一人できました」
そうかいそうかい、と感心したように頷くおっさん。おっさんていうかもう、じいさん。
初老の男性はどこかに電話をかけ、しばらく待っていなさいと言う。
守衛室の中、お茶まで出してもらい、俺は世間話に付き合うことになる。
内山の生徒の話をじいさんはしてくれた。
全寮制、隔絶された世界。男だらけ。
そんな中、ヒエラルキーができてくる。
見た目、成績、家柄。そういったものでの上位関係だ。
なんだそれ、外海にはまったくそんなもの……なくはないか。
外海のヒエラルキーの頂点は、一人ではなくてふたり。
表の生徒会長と、裏はなんと、おとーさんだった。まぁおとーさんなんかすごいからほんとすごすぎて何をどうって言えないけど。
すごかったから。皆が恐れてたよなぁ……そのとばっちりをうけた記憶もある。
と、思い出にうんうんと頷いていたら守衛室にやってきた人がいた。
ちょっと長めの柔らかそうな髪。表情も、柔らかい感じだ。背は俺よりちょっと、高いくらいの人。
来ているのは制服、つまりこの内山の生徒だ。
「遅れてすみません。生徒会副会長の御園 麗ですが交換生は……」
「あ、俺です。相島 心といいます。よろしくお願いします」
「君が……どうぞ、よろしく」
にこりと微笑まれる。
けれどそこには何もねーなと思うはりつけたような。むしろ、敵意?
なんかちくちくしたものを、俺はこの目の前の人から感じた。
2−2.
守衛室のじーさんに礼を言って、案内するという副会長の後ろをついてゆく。
俺が案内されるのは理事長室らしい。なんで、そこ? 普通校長室とかじゃねーの?
何か、学校について説明されてるが俺ははいはいで聞き流す。
とりたてて、聞かなきゃいけないこともないだろうよ。
「聞いてますか、相島君」
「はい、まぁ……なんとなくは」
「……これだから平凡は……」
おっ! 今ちょっとダダ漏れた感じが。
しかし初対面に平凡てな! いや平凡なんで怒ったりはしないけど、これ対人スキル低そうな!
「神楽のかわりがこんなのだなんて……」
ぽそりとつぶやいた言葉は俺の耳にも聞こえている。
神楽。
それは名字だろうか、名前だろうか。多分、俺とチェンジされたやつだろう。
「それ、俺と交換されたやつ? 神楽ってゆーの?」
「! 聞こえて……!?」
「うん、まぁ……その、ごめんな? 謝るのもおかしな事だと思うんだけど。あ、それと迎えにきてくれてありがとな」
愛想笑いとか、別にいいから素でいいぜと俺は言う。
そう言うと、なんでわかったと詰め寄られた。
「なんで愛想笑いだってわかった?」
「え、初対面だし愛想笑いするだろ? 無理に笑わなくていいから」
「……お前、神楽と同じことを言うんだな」
神楽。また神楽だ。
何、神楽と俺は同じことを言うんだな?
おう、結構何も考えずに、そいつも物言うタイプだな。
「……お前、名前は?」
「相島 心。こころんって呼んでもいいんだぜ?」
「そうか、心」
俺のおふざけがするっと流されたことにちょっとダメージ。
にしても、名前、呼び捨て。いやまぁ、別にいいけど。
「僕はお前が気に入ったよ」
そう言って向けられた笑顔は、今までの愛想笑いとは違う。
心から思うような、悪意ではない。けれど居心地の悪い感じの笑い方。
うん、これ知ってる。
外海にもこういう人いた。俺はあんまりかかわらなかったけど。