一年間のサヨウナラ
1−1.一年間のサヨウナラ



 私立外海高校には私立内山高校という兄弟校がある。
 俺、相島 心は外海の生徒だ。
 その兄弟校との一年の交換生、というのに俺は選ばれてしまったわけで。
 なんでかわからないけど、選ばれてしまったわけで。
 断ることもできたらしいが、なんか面倒ではいはいと頷いていたかもしれない。
 というのを思い出したのは、あっちの高校に向かう一週間前のことだ。
 で、俺はそこそこやんちゃをしていたもので。
「……なぁ、お前らそろそろ離れろよ……」
 夜、しばらくさよならだと仲間に話にきた。
 並んでソファに座って離してたら抱き着いてきて、わぁわぁ声あげる二人。
 別に、何か悪いことをしているわけでもなく。喧嘩をするわけでもなく。
 夜に集まって遊んでいる。ただそれだけの集まりだ。
 少なくとも俺は喧嘩はしていない。今、しがみついてるやつらは知らんけど。
「ええええええおかーさんと一年も会えないなんてやだー!」
「一年まるっと会えないわけじゃないし……」
「いやだああああ俺もいぐうううううう」
「ちょ、鼻水つけるな! 鼻をかめ! ほらティッシュ! ちょ、ティッシュとれねぇ!」
「じゃあ失礼しまーす」
「ぎゃあ、くすぐるな! ぎゃっ、ちょ、げふっ」
「はいティッシュー、ちーん」
 ごそごそ体をまさぐられくすぐられ。ポケットだってわかってるのにわざわざ遠回り。
 俺はしがみつく二人を、ひとまず引きはがした。すると二人は反射か、目の前に正座して見上げてくる。
「おかーさぁーん」
「おかーさんいないとかつらい」
「おうおう、そうかそうか。おとーさんと仲良くしろな」
 無理、と二人同時に即返事。
 確かにまぁ、難しそうではあるんだけど。
「別に今生の別れってわけでもないだろ」
「いやいやいや!」
「というかね!」
 何、と俺はその言葉の続きを待つ。
「内山とか! 距離的には行ったり来たりできるけどあそこ全寮制男子校だよ!?」
「らしいな。うちだって男子校だろ」
「そうだけど、うちはおとーさんがいるからおかーさん無事だったけど!」
 なんで、と俺は思うのだが。
 二人――金色頭の相島 高良と茶色頭の相島 連理はわかってなーいと声そろえる。
「そいつ馬鹿だからわかるわけねぇだろ……」
 と、そこに。
 あきれたような声色が響く。
 振り返れば、切れ長の目のイケメン。俺達の中でのおとーさんがいた。
「心よぉ、勝手にどっかいくなんて決めるなよな」
「あー……それはごめん。なんかよくわからんけど頷いてたら決まったんで」
 でも一年すれば戻ってくるし、と俺は言う。
 それが長いんだよ、とおとーさん――相島 総司。
 そう、何の縁があってか。
 俺達は別に親戚でもなんでもないのに名字が一緒だったのだ。
 それが切欠でつるむようになり、仲良くなって、いつのまにかおとーさん、おかーさん、息子ズという構図になっていた。
 それはおのおのの性格ゆえでもあるんだろう。



1−2.


 俺、相島 心は世話焼きだ。片親でもあるので家事などもできる。そもそも男子校で自分の手作り弁当……なんてものを食っていたことが始まり。
 今では四人分、毎日作っている。
 通称おとーさん、相島 総司は。
 一言でいうとなんかすごい。なんかすごいとしか言えない。
 よくわかんないけどなんかすごい。こういう人間っているんだな、へーほーと思っていた。
 最初のうちは、おとーさんおかーさんって合わせて言われてどうなんだよ……と思っていた。
 で、総司にお前いやじゃねーのって聞いたら瞬いて、別に気にならないっていうんで。
 そう言うのをやめろーというのも面倒になって落ち着いた。
 で、相島 高良と相島 連理。
 そもそもこの二人が、俺達をおとーさんおかーさんと言い始めたのだ。
 もともと二人は友達だったらしく仲は良かった。
 悪乗りを楽しいと思っている二人。二人によって、俺とおとーさんも夜遊びに出るようになった、と。
 まぁ俺はおとーさんのおとーさん……ややこしいな。総司の父上様がやってる店でお留守番しつつバイトしつつなのだが。
「心、浮気するなよ」
「浮気? やだー心配してるのおとーさーん」
 そうやって俺が茶化すと、おとーさんはきゅっと眉寄せて不機嫌そうな顔。
 おとーさんはどかっと乱暴に、俺の隣に座った。
「心は馬鹿で間抜けだからなぁ」
「そうそう! だから内山について俺達が知ってることを教えてあげようと思ってて!」
「うんうん。おかーさんがおかーさんだってばれたらマワされちゃうからね!」
「回される?」
 こくこくと頷く二人をみて、どういうこと、とおとーさんを見る。
「内山には、俺らの喧嘩相手がいてな」
「……ほほう」
「おかーさん、絶対でてこないけど俺達が大事にしてるおかーさんがいる事は知ってるみたいなんだけどさー」
「へー」
「いつも見つけたらボッコボコにしてやるとか。まぁつまり」
 俺達にやられてるウサを晴らそうとするってわけだ、と連理が言う。
 高良は困ったものだよねーと言うのだが。
 違う、困るのは俺だ。
 というかそもそも、と思って俺はまず、おとーさんをソファから突き落とした。
 なんだよ、と見上げてくるおとーさんだがしかし。
 しかし目を丸くして、そして笑った。
「なぁ、喧嘩はほどほどにっておかーさんいつも言ってたよな?」
「あっ」
「やべ」
「けどその話を聞くにどうもほどほどでなかったと、俺は思うわけでな?」
「心の気のせいだろ」
「いいや! お前が一番はしゃいでたんだと容易に想像できるわ!」
 ぺちんとおとーさんの頭を叩く。
 痛ぇと睨んでくるが怖くはない。それがフリなのを知っているからだ。
「ああああ、もう不安だー。お前らが俺がいなくなって好き放題するのが不安だー!」
「じゃあ今から断ってこいよ」
「もう無理! 明日からいくんだよ!」
「は?」
 そんなの聞いてねぇ、とおとーさんは低い声で唸り、俺の脚を掴んでソファから引きずり落とした。
「心ぉ、もうどうしようもねぇみたいだから行かせてやるけど絶対、あいつらに見つかるなよ?」
「そもそも言わなきゃわからないだろ……で、総司さん?」
 腕の中にすっぽり抱き込むのやめてと俺は言う。抱え込んで腰に手を回しがっちりホールド。
 こうなると逃げ出せない。
 俺がお前より小さいのは事実だ認めるしょうがない。でもこんな抱えられるとかな!
 なんかな!
「おとーさんはおかーさんがだいすきだもんねぇ」
「らーぶ! らーぶ!」
「おとーさん、おかーさんとられないように必死だしねー」
「や、でもほんとおかーさん気を付けて。色々と」
 笑いながら気を付けてと言われても、と高良を睨む。
「大丈夫だ、高良。あいつらには言わねぇし、そもそも心は俺のだから」
「俺達のー!」
「……まぁお前らの、も一応いれてやるけどな」
「ちょっとー、俺の事もの扱いするなよー。お前らが俺の事大好きなのは知ってるけどさー」
 そう言えば、それをわかってるなら十分だと耳元で笑い声が聞こえた。
 そして襟ぐり引っ掴まれ伸ばされて。
「い゛っ!!!!!!!!」
 俺は噛みつかれた。
 久しぶりの痛いやつ。


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