なに、まってたのと笑う男に無性にいらついた。
まるでそうであることが予想済みで当たり前というような口ぶり。
「別に、まってねーし……ケンカして休んでたとこだし」
「嘘だぁー」
やいちくんは、俺を待ってたんだよねと再度紡ぐ。
喧嘩をしていたのは事実だ。切った口の中は痛い。
暇つぶしにように吸っていたタバコを銜えなおすと也壱は深く息を吸い込んだ。
「ああ、また吸ってるし」
ダメだよ未成年と、惟治は手を伸ばす。奪ったそれをまた惟治は銜える。
「くそまず……」
まずいのはわかっているはずだ。それでも、また吸う。うっすらと瞳に涙までたまっている始末だ。
「俺はどうしてこれがいいのかぜーんぜんわかんない」
そう言って壁に押し付けて火を消す。なんでこんなにタバコってまずいのかとつぶやきながら、指先で舌に触れる。
その動作がひどく扇情的で、也壱は衝動的に壁へと押し付けた。
突然のそれを、笑って、受け流す。
「……なに?」
「よく、わかんねーけど。俺、お前の事好きだと思う」
「……うん?」
「なぁ、男とか女とかこだわらないタイプだろ、あんた」
そうだねと紡ぐ。惟治は也壱が言わんとしていることを察した。
ただ苦笑して、困ったなと続けるだけだ。
「セフレとか、一度だけとかならいいけど、そういうのじゃないんだよね?」
「おう」
「じゃあ、無理かなぁ……」
やいちくん、と惟治は名を呼んで笑う。
「俺とはこれっきりにしようか」
「は?」
「俺を好きになっても、いいことないよ。君まだ、学生だし」
「そんなの関係ねぇよ」
言う事聞いてよと苦笑しながら、どうしようかなぁと惟治は何度も零している。
也壱はそれが、気に入らなかった。
「これはる」
だから仕掛ける。
名前を呼んで、首元引き寄せて口づける。ぎこちなく舌を差し入れるがそれは押し戻されて、逆に犯してくる。
傷跡に触れられて反応したのを惟治は見逃さない。そこを執拗に撫でて、押し返そうとする舌を捕えてなぶる。
は、と息ついて先に崩れたのは也壱だった。
「……あは、これくらいでダウンするくらいじゃ、俺の相手にはならないよ」
「っ、く、そっ……」
「わかったら、やいちくんは俺を諦めてくださーい」
「そ、んな簡単には無理だろ!」
叫びにも近いような強い声色。也壱の声に惟治は瞬いて、そうだねぇと曖昧に笑った。
「俺は頷かないよ」
「簡単に頷くと思ってない」
「そっか、ならいいよ。いくらでも好きっていっていいよ」
「言ってやるよ」
いくらでも言ってやると挑むような視線を也壱は向けてくる。
それが少し、惟治は楽しかった。
最近、やいちくんの姿が見えない。
冬の初めくらいから、あまり見なくなった。そして冬が終わり春が始まる。
部屋の片づけをして、そろそろ仕事にいくかなぁと思った時、玄関のチャイムが鳴った。
勧誘かなぁ、面倒と思いつつ相手を確認すると。
「……唐突すぎる」
なんでここにいるのと笑って開けた先には也壱がいた。
大きな鞄一つ。前にあった時よりも髪は伸びている。
「これはる。俺、大学生になった」
「は?」
「大学近所なんだよ。ここに住む」
「うん?」
「ここに、住まわせろ」
言っている意味がわからないと零す惟治を押し切って、也壱は上り込む。
しばらく姿を消していたくせに、突然何を言っているのか。
そう思ったのを惟治はまずいと思った。はまりかけている。
そもそもなぜ家の場所をしっているのだと問えば、店できいたとしれっと言った。
「……え、本気?」
「本気。一緒に住めば、情もわくだろ?」
挑むような視線は、最初に好きといってきた時と同じだ。
何を言っても聞かないかと、惟治は苦笑して諦める。
「まぁ、いいけど。いいけどそのかわりにさ」
その髪切らせてと、惟治は紡ぐ。
そしてなにこいつって思うレベルの髪ふぇちがばれる。