魔王と二番目
 世界の理。
 魔王というものは世界の魔を身に受ける入れ物、器なのだ。
 だから魔族にとって、一番偉い、従わなくてはならないという存在ではない。
 魔王が持つ力と、器というのは別物だ。
 器というのは、魔王たる資格。力というのは持って生まれたもの。
 だから魔王より力の強い魔物はもちろんいる。
 ただ、世界の魔を身に受け入れ蓄えることができるかどうかで。その蓄えたものを扱えるかどうかは別問題なのだ。
「そう、だから……俺は能無しなわけで」
 そろそろでたいなぁと鉄格子を指でひっかく。
 伸びきった長い髪は邪魔になってきた。縛るものが欲しい。邪魔だから切っても、これはすぐに伸びるのだ。
「今までで一番大きな器なのに、一番力がない」
 使い物にならねぇな、と自分を評して、魔王は笑う。
 世界の魔を蓄える力は、今までの魔王で一番だという。けれど、持ちうる力はほとんどない。
 うまくこの蓄えた力も扱えないのだ。
 だから、意味がない。
 はぁとため息をつけば、足音が聞こえてきた。
 牢へ続く階段を下りてくる足跡。自分に会いにくる物好きは一人だけだ。
「魔王様」
「なぁに」
「口付けに来ました」
「……しなくていい」
 物好きというより、変態。
 にこにこと笑う。鉄格子の近くにいては捕まる。魔王は牢の壁際、端へと避難した。
「つれないなぁ」
「つれて、やられない」
「どうしてですか」
「……それをお前が言うのか」
 お前が、俺をここに入れたくせに。
 魔物の中で、最強を誇るもの。
 魔王の次に、器がでかくて、魔物の中で一番、力の扱いに長けるもの。
 どうしてこいつが魔王ではないのかと、魔王は思う。
「魔王様が、言う事を聞いてくれるなら牢から出しますよ」
「別に、ここ快適だからいい」
「……俺もあまり無体なことはしたくありませんが」
 そろそろ通い妻ごっこも飽きましたと笑う。
 その笑みに魔王は冷えたものを感じる。これは、やばいと。
「夫婦ごっこでもしたい、とでも言うのか?」
「よくお分かりですね」
「……本気か?」
「ええ」
 知ってるんですよ、と笑う。
 そろそろ変容期ですよね、と。
「俺はあなたのそれが、みたい。できたらみつつその体舐めまわして愛でてあげたいのですが」
「変態が」
「はい、ありがとうございます」
 微笑む。気持ち悪いと魔王は紡ぐがそれもうれしいのだ。
「しかし、体も痛くてつらいでしょうに、ここでは快適とは言えないと思いますが」
「そもそも、俺をここに入れたのはお前だろう」
 はは、と笑う。
 笑って、魔王様と声向ける。
「やっぱり我が家に参りましょう。大丈夫です、牢はもう作ってあります。けどふかふかのベッドに超高級の丁度。好きそうな本も酒も何もかもご用意しますよ」
「は?」
「そのかわり、一日に一度、望みをかなえてください」
 どうせろくな事じゃないんだろうが、と魔王は思う。
 いいえ、簡単なことですと笑う魔物に試しに言ってみろと魔王は言う。
 気が向いたら、聞いてやらんでもないと。
 確かに、ここで過ごすのも飽きてきた。抜け出すならこいつの城のほうが此処より容易い。
「俺に好きと、紡いでください」
 うっとりとした表情。
 魔王は何を言っているのかわからないという表情向けた。
「気持ち悪いから、いやだ」
「そう言われると、思ってました」
 にっこり笑み浮かべて、牢の扉を開けて入ってくる。
 魔王はまずいと思って、一歩二歩、後ろへ下がった。
 けれど背中には壁。
 両手を顔の横につかれて閉じ込められる。
「ど、どけ」
「声裏返ってますよ」
「っ」
「魔王様、俺と」
 家族ごっこをしましょうか。
 そう甘く囁く。本当にこいつは何がしたいのだろうかと魔王はため息をついた。


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