「お前、それお気に入りな」
「ああ、うん」
白い鞘に太刀を収める。その動作を見つつ呟けば、太刀の持ち主である弟、アイジは良いだろう、とそれを掲げて見せた。
そんな行動にアルドは肩をすくめてただ笑う。
「つか、いつどこでその太刀手に入れたのか俺、知らねぇんだけど」
「ほら、俺ってこう、見た目がすごく可愛いだろ?」
可愛いとか自分で言うな、とアルドはアイジの頭を軽く小突く。いてっと小さな声が返るもの本気ではなくて、やりとりを楽しむようなものだった。
「貰いものなんだけどすごく、使いやすくて俺の愛刀」
太刀と相性がいいからなんだろうなー、と口の端をあげて笑う。その様にアルドはため息一つ、落とした。
こいつは本当に、学習しないと。
「……知らないやつから、物貰うなって、俺、教えたよな」
「えー」
「えーじゃねぇよ。それ貰ったって、結構値がはるもんじゃねぇの?」
「多分。でもくれるって言ったし、貰えるものは貰っとけってのは俺のモットーだし。いーじゃん、別に問題なかったんだし」
問題ないと言って、今まで何度問題を起こしたのか。そう言ってアルドは頭を抱えた。これがまた、何か問題にならなければいいのだがと。
ずっと、一緒にいるのだから性格をよくわかっているつもりなのだが。アイジは、アルドが自分に甘いのを解っているから、こうしていつも好き放題なのだ。
「大丈夫、ちゃんと危ないものには手をださないから」
「その言葉、信用ねぇよ」
「えー! 信用してよ、にーちゃん」
アイジはにひにひと笑う。だいじょうぶだってぇとへらへら、それはいつもなのだけれども。
いつもだからこそ、アルドは口の端ひきつらせた。
「うっわ、その顔すげーむかつく!」
「え、ちょ! いとしの弟にむかってむかつくとかひどい!」
「ひどくねぇ!」
そんなやりとりをしながら進む行くあてのない旅路は、まだ途中だった。
アルドはうとうとと眠る中でそれを夢見た。
ああ、懐かしいと知らず笑み零して自嘲する。
幸せも覚えているが、それよりも鮮明に絶望も覚えている。
それは辿りたくはない思い出だ。