君に溺れる
 俺に何の力もない。というのはウソだ。
 力がありすぎてどうしようもないからこそ、ないのだ。。
 そもそも、生まれたときは普通くらいだったのだ。それから成長するにすれ、肥大化した俺の中の、契約の糧。
 それを常に使っていないと俺の命が逆に削れてしまう。
 けれどこの契約の糧はあいつらにとって必要不可欠、美味いものだったのだ。
 物心ついたころ、はじめて死にかけた時だ。あいつらは俺の前に現れた。
 火性のシャッカ。水性のスイソウ。風性のフウリ。地性のドノ。
 そして俺は、誰でもいいとその時目の前に差し出された手の一つをとった。
 それは水性のスイソウのもので、俺はあいつと契約した。
 ということらしい。俺に契約した気はなかったのだがあの日以来死にそうだった程の痛みや苦しみはなくなった。
「スイソウ、やめろって」
「なんで? 君は僕のものなんだからさ」
「いや、そうなんだけど……ひゃ、くすぐってーよ、やめろって」
「いやだね。僕のもののくせに、シャッカに触らせただろ」
 触らせただろって。
 昨日現れて、あいつは頬を撫でていっただけだ。
 スイソウのように体をまさぐっていったわけではない。
 触れるだけで、俺の中にある糧を持っていくあいつら。時折現れてはそうしていく。
 美味しいから少し、つまみ食いをさせてくれということらしい。
「君は理解が足りてない。僕のもので僕は君のものだ。誰にも触られてはいけない。ヒトにだって、本当は」
「ごめんごめん、わかった。気を付ける」
 このやり取りをもう何度、何十回、何百回繰り返したか。
 誰かに触れられないなんて無理な話なのに。
 ふん、とスイソウは鼻を鳴らす。そして頬を包むように手を添えてきた。
 冷たい手だと、俺は思う。
「キスしていい?」
「いいけど、水送るのはやめてくれよ」
「あれは僕に溺れてって言ってるんだよ」
「知ってる」
 キスなら優しいのがいいなぁと言えばわかったとスイソウは答える。
 ちゅ、とかわいらしい音をたてて口付が落ちた。


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