【ランドールが女装レクシスに再会。からの!】
突然の呼び出しだった。
なんだろうかと思って城に向かえば大した用事ではなかった。呼ばなくても、むしろ自分でなくても事足りるだろうと思ったその、帰り道。
城の中庭でランドールはその姿を見つけた。
「っ!」
思わず息を飲む。庭の東屋、その椅子に座って本を読んでいるのは紛れもなくシスだった。
さわさわと柔らかく吹く風が彼女の髪を少し、靡かせる。
どうしようとランドールはうろたえる。彼女は自分には気づいていない。
どうしようとその場でぐるぐる回った末、ランドールは意を決して彼女の方へと歩んでいった。
「……よぉ、元気、か?」
「あ……ランドール……こんにちは」
声をかけるとシスは本から顔を上げた。
上目遣い、見つめられる。それだけで舞い上がる気持ち、幸せだ。
ぱたりとシスは本を閉じ、どうぞと隣を彼女は隣を勧めてきた。
「……本、読んでたのか?」
「ええ。ランドールはどうしてここへ?」
そう問われる。表情は変わらぬままだ。
けれどそれに応えて、そしてお互いが質問をしあうように会話は続いた。
好きなもの、いつもどうしているのか、など。
その会話の中で、ふと二人の手が触れあった。
「あ」
「ごめんっ……」
どきんどきん。鼓動が高鳴る。
恥ずかしそうにシスは一度瞳を伏せ、そしてランドールを見上げた。
近い、その上その瞳は潤んでいる。ねだるような視線だと思った。
「……ラ、ランドール……わたし」
「……シス」
ちらり。視線を一瞬向けて逸らす。
これはいいのだろうか、とランドールは思った。
そっと頬に手を添えて、顔を近づけて。
「…………ウソだろ……」
そこで目が覚めた。あと少しの距離だったのに、だ。
「ランドール、早く準備しなよ」
「……ガシュルの、馬鹿野郎!!!」
「なんだよいきなり!!」
幸せな夢の終わりはあっけなかった。
思わず枕を投げた。それがガシュルにあたることはなかったがぼすんと落ちる。
ランドールは大きなため息をついて、のろのろと支度を始めた。
服を着替え、顔を洗い。朝食をとる気にはなれなかった。そのまま先に行く、とガシュルに告げて足早に出ていく。
はぁ、と溜息をつきながら入る構内。その道の途中、ベンチに座っている人影がひとつあった。
「!!」
その横顔が、夢の中の彼女と一緒で。
「……レクシス、か……」
つながりはないと本人は言うがそうは思えない。あんなに似ているのだ。
髪色は違うが瞳の色は同じだ。
ランドールはぐ、と息詰まらせる思いでレクシスの方へ歩みを進めた。
「……よぉ、おはよ」
「あ、ランドール先輩。おはようございます」
「なんでこんな時間にいるんだよ」
「先輩こそ」
見下ろす、見上げられる。
まさに夢のままだな、と先程を思い返す。どうしたんですか、とレクシスが首を傾いでみせた。
「俺は気が向いたから早くでてきただけで……」
「そうですか。僕はバイトルートの付き合いで早起きしたんですけどね」
座ります? と示される。その言葉にランドールは従った。
隣に腰を下ろす、その距離は夢より遠い。
「……なぁ」
「はい」
「お前やっぱり俺のために女装してくれよ。女装してくれたら俺、あの夢の続きが見れる気がするから」
「………………は?」
「女装してくれたら何か礼はする。するから頼む!!」
「………………いやです。僕の女装なんて気持ち悪いだけです」
「そんなこというな。大丈夫だ絶対に、似合うから」
「力説されてもですね……」
困った、というよりも何をふざけたことを。そんな声色でレクシスは顔を歪める。
「……先輩は、いい人で」
「うん?」
「頭もよくて、人気もあります」
「お、おう」
褒められている。何故褒められているのだろうか、と思うが悪い気はしない。
「人気もありますが……果てしなく馬鹿ですね」
「は!? バカじゃねぇよ」
「馬鹿です」
そんなことない、という間に通りに人が増えてくる。
これ以上は話していられないと先に席を立ったのはレクシスだった。
「待てよ、まだ話は」
「終わってない、ですか。僕の方はもとからありません、失礼します」
レクシスはすたすたと去っていく。
それをランドールは当然のように追いかけて食い下がったのだが、頷かれることはなかった。
夢おち!
からの、安定性。
夢の内容はランドールの妄想なので、きっと現実にこういうのがあればもっと辛辣にあしらわれるんだと思います。