ある一日【22222りくえすと】
【みんなに教育されるレクシス(拾われた後くらい)】



「……おはようございます」
 一日の始まりは皆で一緒の朝食から。ほぼ毎日、いつもいないセンリ以外は揃っている。
 そして、いつも聞かれるのだ。
「今日、何したい?」
「……もじのかきとり以外」
 ここで答えない、という手がないのはすでに学習済み。レクシスはにこにこと笑顔のキアティスにそう答えた。
 気紛れで、本当に時々そのリクエストは聞き届けられる事がある。
 が、大体はそんな事認められない。要望が通らない事を承知の上で、だめでもともと精神でレクシスは紡いだ。
「ジュリ書き取りってどんな感じだ」
「まだミミズですね。時々反転して書いてたりもします」
「そうか。じゃあ午後から書き取りだな」
 あ、やっぱりそうなりますよね。という表情になってしまう。
 あまり長時間書いていると指先が鈍るので、最近右手でも左手でも、と文字を書く時は交互に使っていたりする。
「午前中は俺が扱いてやるよ」
「俺も俺も!」
「じゃあ俺も」
 ぼく、ごぜんちゅう、しんだ。
 思わず心の中が真っ白になりかけたのは、キアティスも、ギアルトも、ナルヴィも相手をすると言ったからだ。
 そしてさらに、そこに追い討ちのように。
「じゃあワタシも久しぶりに一緒に遊んじゃおうかしら」
 シノもうふふと笑みを浮かべる。
 遊ばれる、絶対に遊ばれるとレクシスは心の中で反芻し続ける。
「それじゃあ午後からは俺がみよう。書き取りでいいんだな」
「はい。私、用事終わったら交代しにきますね」
「えっ、サイラードさんが書き取りです、か……」
「そうだが、何か問題でもあるか?」
「ないです……」
 これはやばい、とレクシスは思った。サイラード相手に手は抜けない。しかも午前中は絶対に激しい攻防を叩き込まれる。疲れきった状態で書き取り? 寝るに決まっている。
 と、ぐるぐるとレクシスの頭の中ではこの後の流れが展開されていた。
 それを知ってか知らずか、午前中の勉強が始まる。



 基本的に組手の型というものはレクシスに教えていない。我流で受けた中から拾え、盗めというのが教えなのだ。
 実践さながらのほうがあとあと役に立つとそれぞれが思っている。
 が、しかし。
「先生方、四対一ではさすがに僕が不利すぎると思います」
「不利を跳ね返す力をお前に与えてやる」
「……やさしめでおねがいします……」
 と、言ったものの。確かに四対一では不利すぎるは否定できなかった。
「それじゃあこちらも三対一になって、一とレクシス君が一緒にっていうのどう? 仲間がいるっていうのも経験したらいいはずですわ」
 そうシノが提案したので仕方ない、と分かれると一になったのはキアティスだった。
 それはそれで、嫌な予感しかない。
「お前、足ひっぱるなよ」
「えー……」
「いいか、まずあいつらの弱点を狙え。攻撃はお前、防御はお前。俺に攻撃を通させるな、いいな」
 無茶振りだ、横暴だ。そう思って、それを言葉にするよりも早く始まっていた。
 ひゅんっと空を切る音はシノの鞭。まさかの武器有りに後方へ引いて交わそうとするが、リーチの見切りに失敗して頬を掠めていく。
 右方向からナルヴィの蹴り、左方向からギアルトの拳が見える。どちらも避けるのは無理、受けるならばダメージの低い方はどちらか。
 咄嗟の判断はギアルトの拳を受けるだった。振りぬかれる足と拳、衝撃が小さいのは拳。そのはずだが、ガードした腕がびりびりと痺れるような痛みだ。
 転がって前に出ながら受けた。そして相手方に視線を向けたとき、勢いのままにナルヴィはキアティスの方へ向かっており、押さえに行くのはもう間に合わない。
「あっ」
「俺に攻撃通すなっていったよな?」
 ナルヴィの攻撃はキアティスにあたっていない。けれど自分に攻撃を仕掛けることができた時点でキアティスの中ではアウトだ。
「ま、仕切り直して頑張ろうか」
「はい……」
 ぽん、とギアルトに肩を叩かれ同情される。けれど優しいなんて絶対に思わなかった。
 結局、午前中の間ずっとキアティスに攻撃を届かせないをできる事など一度も無く、程よい頃合に腹筋腕立て兎跳び100回ずつをペナルティとして言い渡された。
「全部終わったら昼飯だよー」
「え、気持ち悪くて食べれな……」
「喋らずやれ」
「はい……」
 いち、に、と数えながら百まで。そして次のをいち、に。
 そんな状態で昼なんてまともに食べられるわけが無く、後々すきっ腹が辛くなるのもわかっていた。



「…………すみません、サイラードさん。僕はもう無理です」
「無理じゃない、やればできるだろ?」
「いえ、あの……もう……」
 起きなさい、と額を小突かれる。
 こっくりこっくり。疲れた体は休息を求めて眠ろうとする。頭がぐらぐらと揺れて、何を書いているかもすでにわからなかった。
 紙の上の羅列は、何を書いているか分からないほどのミミズっぷりだ。ひどい。
「極限状態はいつ、どこで、どんな風に襲ってくるかわからない。その訓練だと思ってやりなさい」
「……はい………………はっ」
 つーと紙の上を走る黒い線。書き取りをやらなくては、と一文字ずつ丁寧に書いていく。
 一文字ずつの書き取りからは解放され、最近は単語を書き綴っている。今日は果物シリーズだ。
 かりかりと書いていく。ただただ書いていく。その規則正しいスピードが変わってくるとサイラードはレクシスに声をかけた。
 飽きて集中力が切れたか、はたまた眠りかけているか。今日は眠りかけているばかりだ。
 午前中がきつかったのは知っている。サイラードは仕方ないと小さく笑った。
「ジュリアが来るまで寝なさい」
「……ありがとう、ございます……」
「起きたら遅れた分を取り戻すべく」
「がんばります。おやすみなさい……」
 紙やペンを端によせ、机に突っ伏して眠りに落ちる。
 すやすやと穏やかな吐息は規則正しく、ジュリアがきても起こすのはかわいそうか、とサイラードは思う。
 それから、彼女がやってくるまで一時間ほど。レクシスは休息をとる事が出来た。
 そしてやってきたジュリアの手には休憩に、とサンドイッチ。
「お昼食べれてないでしょ? これ食べた後は続きよ」
「はい!」
 程よい量を口にして意識もしっかりしてくる。それからはかりかりと、今日はこれだけと出された分量をやり通すことができた。
 チェックしてもらった文字は合格ラインを超えていた。これで午後は終わり。
 そして夕食の後、夜の短い時間でも勉強はできる。
 というより、本を読んでいるのだ。正しくは、アイーダに教えてもらいつつなのだが。
「今日はー、これ! おとぎばなし」
「アイーダはおとぎばなしが好きですね」
「うん、おとぎばなしは好きよー。今日はしあわせ探しのお話にしてみたよっ」
 子供向け、これならレクシスも読めるよねと寝台に広げた。
 絵と、簡単な文字。それが今の自分に丁度良いことは一番わかっていた。
 本を読みながら、この続きはきっとと話したりここからこうなればもっと面白いと二人で空想を巡らせる。
 そしてそのまま、一緒に寝てしまうのが常だった。
「今日も良く寝てるなァ」
「キア様、あまり無理させるのもどうかと思いますが」
「こいつ、ちゃんとやれてるだろ」
 だから大丈夫だとキアティスは言う。眠ってしまったアイーダを抱えあげたサイラードはほどほどにと苦笑して先に部屋を出た。
「……ほんと、俺の予想よりお前はやれてる」
 がんばれよ、と布団にいれてその頭を撫でる。
 また明日からも扱いてやるからとキアティスは笑って、部屋を出た。



キアティスが見えないところで優しいのはデフォルトなんですが、なんかちょっと気持ち悪くてこわいな…とか思わずにいられない。
こんな感じで日々扱かれて、今のレクシスになりました。


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