そうして美景が扉を叩き続ける事10分。
がちゃ、と閉ざされていたそれが開いた。
「なんだようるせーんだよ美景……」
「捺時! 早く出てこいよ! 俺の友達を紹介してやるから!」
「はぁ?」
お前の友達なんて奇特なやつ、と捺時が視線をちらっと扉の外に向けると、ちょっと困ったような表情でそこにいる琥太郎が見えた。
「な……何してんだよ……」
思わず、その表情に力が弛む。その瞬間に美景によって扉はこじ開けられ、捺時は引っ張り出された。
「あ、俺の苺ミルク」
「え、あー、ごめんな。少し飲んだわ」
一口飲んで、甘ったるくて飲めないと思っていた。そしてどうしようかと思っていたがこれの持ち主がいるなら、返すだけだ。
「スオウ! こいつは捺時! 捺時! こっちはスオウ!」
「スオウ?」
見知っているのだが、ここは初対面を貫いた方が良さそうだと捺時も察した。
スオウと呼ばれているが名前は違ったはず。と、思うがそれが苗字だということに思い至る。
つまり名前呼びを回避していたのだ。
「どうも、隠乃捺時です。ああ、先輩の名前は有名なので、知ってるので自己紹介はいいッス」
「そうか。で、隠乃は」
「美景! 二人とも、隠乃だから!」
あ、と琥太郎は零す。
一度名前を呼んだら、なんとなく一層懐かれる気がして呼ばずにいたのだが。
ここではそうもいかないようだ。
今、美景の視線は琥太郎に向いている。捺時はあーあ、というような、どこか申し訳ないような表情をしていた。
そして覚悟を決めろ、とも。
「そうだな、二人とも隠乃だったな。で、遊ぶって何するんだ?」
「へ?」
「うん、遊ぶんだろ?」
けれど、琥太郎は名を呼ばずやり過ごした。そして笑顔浮かべて、遊ぶんだろうと再度問う。
「遊ばないなら俺、帰るよ。お疲れー。明日も学校あるから早く休め、な?」
そう言って琥太郎は立ち上がる。立ち上がって、捺時に部屋に入るようそれとなく促した。
そして美景にも。
「はしゃぐのもいいけどさ、初日ってのは疲れてるもんだから早く休んどけ。いつでも遊べるからな」
「でも」
「隠乃……美景。先輩のいう事はきいとけよ」
「っ!」
な、と笑って見せれば美景は黙り込む。それと同時に頬を少し、染めた。
ちらりとその様子が見えた捺時は瞬いて、ため息一つ落とした。
確実に、美景に気に入られる決定打だと。
笑顔を向ける。美景だけに笑顔を向ける。
それはやってはいけない事だと伝え損ねていたのも思い出す。
美景は笑顔を向けられるということを、好意を向けられていると思うのだ。
それは昔から変わらぬことで、一度そうだと思ってしまうともう取り返しがつかない。
それ以降、どんなに冷たい態度をとってもついてくるのだ。
「俺、しーらね……とは言えねーか」
捺時は呟いて、部屋の扉を閉め携帯を手にとった。ため息つきながらメッセージを飛ばすのは琥太郎と、そして兄にだった。