災難の同室者
「着替えたかったんだけどなー……」
「スオウ! こっちだ! ここが俺の部屋なんだぜ!」
 嬉しそうにきゃっきゃとはしゃぐ美景をみつつ、一つため息落とす。
 どうしてこうなったんだろうかと思いつつも、もう一緒にいるのだから仕方ない。
「お前の同室ってだれ?」
「捺時! 俺のいとこだ!」
「え?」
「おじさん優しいよなー! 俺たち仲良いから! 同じ部屋にしてくれたんだぜきっと!」
 捺時はそんなことは一言も、言ってなかった。
 つまり知ったのは、おそらく美景がきてからなのだろう。そういえば顔も今日はみていないなと琥太郎は気づいた。
 二人が同室。
 そういう風に手が回せるのは景樹くらいだろう。美景のことをわかって、わざとこうしたに違いないと思わずにいられない。
 捺時には申し訳ないが、確かに美景と一緒になる負担を思えば多少慣れている身内を当てたほうがいいだろうという考えなのだろう。
「捺時は?」
「まだ部屋には帰ってない! あいつどこにいるんだろうな! 俺と一緒にいるのが恥ずかしいのかな!」
 それはない。
 それは絶対にないとあの口ぶりから思うが、琥太郎は思うだけに止めた。
 そして部屋に到着すれば意気揚々、美景は部屋の扉を開けた。
 ただいま、と大声と共に。
「お邪魔しまーす……」
 部屋の中に入ると同時に、気配一つが慌てて動いた。
 それはおそらく、捺時だろう。琥太郎はわかりやすいと小さく笑い零す。
 そしてこの慌てっぷりは昔飼っていた犬に少し、似ていると。
「何がおかしいんだ?」
「え?」
「今笑ってただろ!」
 ああ、と琥太郎は頷いて、何故かの答えを待っている美景をみた。なんと答えようかと。
「思い出し笑い、かな」
「思い出し笑い?」
「昔飼ってた犬に似て……かわいいな、と。まぁ、それはいいだろ」
 まだ何か言いたそうな美景だったが、琥太郎は押し切る。
 そして半ば無理やり共有スペースまで入り込んだ。そこは自分の部屋と同じ仕様。
 散らかりもせず、凄然としているのはまだここでの生活感が薄いからだろう。
「えっとー、スオウは何がいいんだ? 茶? 炭酸?」
「なんでもいい」
「じゃあ苺ミルクでいいか!」
「お、おう……なんでそんなもんあるんだ」
 苺ミルクという思いのほかあまったるそうな飲み物の出現。
 琥太郎は目の前に置かれたそれをじっと見詰めた。
「捺時! いるんだろ! お前もでてこいよ! スオウが遊びにきてるんだぜ!」
「あの、そんな激しく扉叩かなくても、な?」
「これくらいしねーと捺時には聞こえないんだ!」
 お前本当に早くでてこい、と琥太郎は思う。
 扉を殴るような音とこの声は、おそらく外にも響いているだろうというレベルだ。


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