美景の声を交わしながらゆったりしていれば、食堂の入口からざわめきが聞こえてきた。
そちらに視線を向ければ、生徒会のメンバーだ。自分たちと同じく、先ほどまで校内に残っていたのは知っている。
ここでかち合うとは思っていなかった。長居しすぎた、と琥太郎は青風へと視線を向けた。
「青風、ささっと食って行こう」
「そうだなー」
小声で話す。その声は美景には聞こえていなかった。
というよりも、目の前から消えていたのだ。
美景が向かった先は、今食堂にきたばかりの生徒会メンバーのところ。
あ、と思う前に、止める間もなく美景は突進していた。
「あー! お前! 今度こそ名前教えてくれよな!」
そしてよりにもよって、というところだ。永久へと、話しかけていた。
昼間ばっさりスルーされ、今をもって不機嫌そうに眉根に皺を寄せているにも関わらず、だ。
「うーわー……あいつすげーな……」
「今のうちに逃げるかこれー」
そうしよう、と琥太郎は答える。静かに席を立ち上がってそっと食堂を出ようとした。
だがやはり、そうはさせてくれなかった。
「……コ……周防君、どこいくの?」
にっこりと微笑んで、佐和がその場に止めた。
ねぇ君達だよね、これをここに連れてきたのは。とばっちりはこっちだよね。どうしてくれるのかな。
そんな風に、視線と笑顔が物語っている。
「あー……飯、食い終わったしー、なぁ?」
「俺たちまだこれから風紀の仕事あるし?」
「あるある」
琥太郎と青風と視線合わせて薄ら笑う。
本当はないのだけれども、あるいうことで逃げようと思ったのだがやはりうまくいくわけがない。
「……おい、隠乃美景。こいつらは今から飯食うんだ。俺が遊んでやるから、こっちこい」
「わかった! スオウ、俺の部屋来いよ!」
「あー、うんうん……青風、お前はいーよ。俺、頑張ってくる」
「大丈夫かー?」
「一緒に行くっていわねーのな」
めんどそうだし、と青風は答える。それに琥太郎は苦笑した。
「無理そうなら携帯鳴らして」
「そうする」
こっち、はやくと腕を引っ張られるのを半ば無視して話していればそれに焦れてきたのか美景が腕をつかんでくる。
それはひっぱていた時よりも数段、力強い。
「……痛いんだけど」
「お前が俺を無視するからだろ!」
その自信というか、自己を肯定し続ける力はどこからでてくるんだろうか。
そう琥太郎は思いながら引っ張られるままに美景の部屋へと連れて行かれた。
その背をじっと永久は追う。
「カイチョーさん、なんでそんなに不機嫌?」
「あ?」
「……あんたさ、探し人云々なら時陽さんにでも俺にでも、誰にでも聞けばいいのになんでさ、コタを構うのかなーって」
俺、不思議なんだけどなぁと間延びした声で青風は言う。
その言葉に永久は笑った。
あれに聞くのが一番おもしろそうだからだと。
その答えに、いい嗅覚してると青風は思うのだけれども、そうと短く頷いて返しただけだった。