やる事を終えて校舎を出る。寮まではすぐなのだが、この時間はやはり肌寒い。
くしゃみ一つ零しそうになったのを堪えながら琥太郎は校舎を見上げた。
「あ、生徒会室まだいるんだな」
「この時期はやる事いっぱいあるからなー」
「佐和達の疲労蓄積は俺らの比じゃねぇか」
そんな話しつつ、寮の玄関をくぐると同時に琥太郎は表情を歪めた。
「スオウ! おかえり! 遊ぼうぜ!」
「……逃げたい」
玄関のエントランス、その横の応接セットからぴょんと美景が走り寄ってきたのだ。
わくわくといった風な様子で近づいてきて、抱きつかれる。
けれどすぐにそれを拒否して離れた。
「あのな、悪いけど俺ら飯もまだなんだ。それが終わってからにしてくれね?」
「俺より飯が大事なのかよ!」
めっちゃ大事だ。
そう思うが言葉にするのはやめておいた。
琥太郎は青風と視線あわせ、行こうと促す。美景がわめいているがそれを気にせずだ。
傍で上げられる声を無視しながら二人は食堂に入る。
遅い時間だがもう何も無いわけではない。あるモノを頼めば、そこで当番をしていた若い男が大変だなぁと声をかけてくる。
「ご飯まだあるけど大盛りにする?」
「まじすか、お願いします」
「はいはい。君ら風紀だろ、遅くまでご苦労さん。おまけしといたから」
「あ、どーもありがとございますー」
「しょうがないから飯終わるのまってやる! 早く食えよ!」
「……なんか、そっちもお疲れ様……」
高く響いた声に苦笑混じりに言われてどうもとまた返す。
ため息しかもう落ちてこない。
この煩い声を一緒か、と思えばきっと食べた気もしないのだろう。
それは青風もおそらく同じで、付き合ってもらうのもなんだか悪い気もした。
「別に離れて食ってもいいけど」
「お前が耐えられなくなって暴れたら誰が止めるんだーって話」
「お前だな」
一人ならイラつくのも早い。そのうち、この頭掴んでテーブルに叩きつけるくらいはやってしまうだろうと琥太郎は僅かながらに思っていた。
けれど、少し吐き出し口があればまた違う。
丸いテーブルに隣同士で琥太郎と青風は座る。その琥太郎の隣に美景は座った。
「早く食べろよな!」
ゆっくり食べよう。そう思った瞬間は一緒だった。そしてその間にどう逃げるか、考えめぐらせるのだ。
「なぁ! スオウはトキハルを知ってるか!?」
「え、あー……」
知ってる。と、答えればどうなるのだろう。知人程度だといえばいいのか。
それとも先輩後輩か。
「有名だから、誰でもしってるんじゃないか」
「そうだな。二年以上は誰でも知ってるだろ」
一年も、外部から以外の奴は知ってるはずと青風がさらりと答える。
その答えに、そっかと美景は嬉しそうに笑っていた。