その後に
 受話器を睨む。その様子にどしたのかと視線が集まる。
「会長さんが気に入らないだけ。今日の分、早くやって帰ろうぜ」
 腹減った、と琥太郎は言ってその場を区切る。
 けれど、内心はムカムカと。偉そうに上から目線。早めにケリをつけておいたほうがいいんだろうかと思いつつ。
 でも、自分が探している人物だと言う気はないのではぐらかすしかない。
 知らない、と。
「そーだよ俺がロウって名前で夜遊び始めたの高一年からだったんだよこれ。そして155の俺はその頃にはいないわけでぇ! つまり入れ替わりだっつーんだよで押し切ろうよしそれだそれでいこう知らないってことでおっけー」
「何、ぶつぶついってんだ?」
「うん? なんでもない!」
 ぶつぶつとつむぐ言葉に不審な目を向けられる。それでもニカッとなんでもないと琥太郎は笑ってみせた。
 そう言われたらもう問う事はできない。
 放課後の学園内巡回から戻ってきたメンバーに声をかけ、書類を受け取っては確認する。
「あ、ここちげーし。直しといて。あとここわかりにくい」
「了解っすー」
「青風、あと報告きてないのは誰んとこ?」
 と、もういい時間だと琥太郎は顔を上げた。
 聞かれた青風は傍に置かれたリストに手を伸ばし、それを捲る。それは今日の校内巡回メンバーの行動予定のリストだ。
 そしてこの風紀室へ戻ってきた者はそれにチェックをいれていくのだが。
「あー……時陽&奏太先輩チーム」
「あー……じゃあいい」
 あの人たちは報告こないし、と琥太郎は零す。何もなければ、の話だが。
 何かしらの違反者を見つければ嬉々として捕まえて引き摺ってくる筆頭だ。それがないということは何もなかったという事なのだろう。
 今頃、寮の自室でのんびりしてるに違いない、と思わずにいられない。
「今日も取り立ててやばそなことはなかったかー」
「あ、コタ。これ親衛隊持ちのリスト。あと、できそな奴も数人」
「お、さんきゅー。青風、仕事速いわー」
「やったの俺じゃねーけど」
 そう言って、礼なら言灯にいっておけと青風は言う。それを聞いて、そういえばと琥太郎はその人物を思い浮かべた。
「今日、姿みてねーなぁ」
「風邪だって。それもメールで飛んできたし」
「えぇー。あとで見舞い行くかー」
 燈能言灯(あかりのことひ)とゆう名の友人。彼もまた幼等部の頃よりこの学園にいる人物なのだが、守らなければと思わせるタイプの人間だった。それも嫌味も何もなくだ。
 ほわほわのふわふわ。そう、琥太郎は表する。
「でも風邪って珍しいな」
「なんか実家帰ってる間に水被って引いた風邪がぶりかえしたとかなんとか」
「水被るって何してんだ……」
「さぁ?」
 話をしつつ手を動かして、琥太郎はリストをさらっと読み込む。何人か目につく者もいるが、そんなに多くはなさそうだ。
「……一人ずつ当たるしかねーもんなー……」
 めんどうと思いつつも請け負ったのだからやるしかない。
 風紀室にいるのが青風と二人きりになり、やっと琥太郎はその手を止めた。
「……帰るか」
「あー、あと五分まって」
「おー」
 伸びをひとつ。
 時間を視れば20時前。良い頃合いだった。


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